税務署に目を付けられる個人事業主とは?実際の事例から税務調査がくる理由と事業主の特徴を紹介します。


私たちの事務所には、税理士がいない個人事業主の方から税務調査に関する依頼が数多く寄せられています。

特に7月から11月にかけて税務調査が集中し、「なぜ自分が?」という疑問を抱く方が少なくありません。しかし、数多くの事例を見ていると、ある程度の「税務調査が入りやすい傾向」をつかむことができます。

そこで今回は、弊社が相談を受けた実際の事例をもとに、税務署に目を付けられやすい個人事業主の特徴を解説します。税務調査に不安を抱いている事業主の方は、ぜひ参考にしてください。

税務調査が入りやすい傾向とは?


税務調査が入る理由については、実務の中で次第に見えてくるいくつかの傾向があります。

もちろん、税務署がどのように調査対象を決定しているのか、内部の詳細までは私たちにはわかりません。しかし経験上、特定の条件に該当する事業主には注意が必要だと感じる場面が少なくありません。

また、これは意外に知られていないことですが、調査官も必ずしもすべての調査理由を把握しているわけではありません。特に経験の浅い調査官は、上司である統括官から「ここに調査に入ってみてほしい」と指示されることも多く、その対象の事業主がなぜ税務調査を受けることになったのか、詳しい背景は知らないまま調査に入ることもあります。


事例紹介:税務調査に入った個人事業主


以下は、2024年7月から11月に私が立ち会った2つ事例の収支データです。こちらは実際に申告していた数字を少し変えてものですが、参考になると思いますので紹介します。


事例① 運送業を営む個人事業主


令和5年令和4年令和3年
売上高3,420,5043,005,6253,330,660
外注工賃172,698160,210168,460
租税公課150,650185,320140,620
荷造運賃60,56378,00590,550
水道光熱費365,250307,509301,506
旅費交通費105,45259,885182,149
通信費200,806193,852184,083
接待交際費53,97055,89646,700
修繕費810,330690,2251,161,168
損害保険料428,440439,440484,790
消耗品費632,466512,119286,337
雑費144,808106,58079,050
経費計3,125,4332,789,0413,125,413
所得金額295,071216,584205,247


この申告の内容をみてどう思いましたか?

いろいろと突っ込みたくなるポイントはありますが…特に感じることは概ね同じになると思われます。
たとえば、


  • 毎年狙ったように20万円台の所得になっている
  • そもそも年間20万円の所得では生きていけない
  • 売上が抜けているのではないか?と疑いたくなる


などが挙げられるでしょう。売上に対し経費が大きく、ほとんど利益(所得)が残っていないなど…違和感のある、不自然な数字だということは誰の目から見てもあきらかです。

もうひとつ事例を見てみましょう。


事例② 電気工事を営む個人事業主


令和5年令和4年令和3年
売上高12,512,2848,228,0147,778,643
仕入高340,406315,210302,023
原価償却費452,121877,983869,114
地代家賃1,210,0001,210,0001,210,000
租税公課200,500119,600119,600
水道光熱費45,07153,21846,631
旅費交通費632,320348,610236,200
通信費450,650385,960367,774
接待交際費700,500432,156316,677
修繕費330,005245,355115,875
損害保険料190,550191,560192,770
消耗品費2,394,6441,356,8491,141,568
雑費1,735,4841,135,4841,024,248
経費計8,341,8456,356,7755,640,457
所得金額4,170,4391,871,2392,138,186


こちらの申告内容はどうでしょうか?こちらも気になる点は複数ありますが特に目立つのは以下のものです。


  • 令和5年に急に売上が伸びてる
  • 消耗品費が多い(令和5年に関して毎月20万円使っている)
  • 雑費が多い(過去3年とも毎月10万円近く使っている)
  • 外注費も給料もない、つまり一人でこれらの経費を使っていることになる
  • 事業規模と経費のバランスが悪い


このように、税務調査を受けるを受ける事業主は、申告に対して何らかの不自然さがその数字から読み取れるものなのです。

税務調査が入った理由とは?


さて、もう少し具体的に、税務調査が入った理由を考えていきます。

今紹介した事例の共通点を探ると、まずは「所得が少ない」ことが挙げられます。税務署は膨大なデータをもとに、業種ごとに「この売上なら経費はこれくらい」という平均値を把握しています。その基準に照らして「利益が少なすぎる」場合、以下のような疑いが生じる可能性があります。


  • 売上を一部隠している可能性
  • 経費を多めに申告している(水増ししている)可能性


があるからです。

一般的に、個人事業主が税務調査を受ける確率は約1%とされています。これは「100人中1人」が調査対象になるという確率で、調査を受けることは本来非常に稀なケースです。しかし、申告内容に不自然な点がある場合、この確率は大きく上昇し、税務署からの調査対象となる可能性が格段に高くなります。

もちろん、正当な理由で利益が少ない申告であればなんの問題もありません。しかし、税金を少しでも安くしようと売上を隠したり経費を水増ししていたりする場合、1%という確率を大きく超えてくるでしょう。

当事務所に税務調査の立ち合いを依頼される方のほとんどが、プロの目からすると申告内容に「数字に違和感がある」と感じるケースです。この事実が、まさに税務署が「不自然な申告内容」を見逃さないという現実を物語っています。


適正な申告の重要性


弊社職員の父も30年近く個人事業を営んでおり、後半は弊社で申告を担当していましたが、一度も税務調査が来たことはありませんでした。他にも弊社が顧問契約を結んで頂いている個人事業主の方の税務調査はほとんどありません。

適正な申告をしている限り、税務調査のリスクは非常に低いと感じています。残念ながら、上記の2つの事例も税務調査で売上の過少申告と経費の過大申告を指摘されたしまった事例です。


まとめ


最後に要点をまとめます。


  • 利益が少ないことが事実であれば、堂々と申告しましょう
  • 売上や経費に操作を加えないことが最も確実な方法です
  • 適正な申告を行い、税務調査のリスクを避けることで安心して事業に集中できる環境を整えましょう



個人事業主が税務調査に入られる確率はごくわずかですが、その中で調査対象になる方は利益が少なすぎるといった共通点が見られます。税務署はデータに基づいて異常を察知し、「本来の利益水準に達していない」申告内容に対して調査に乗り出すことが多いのです。

また、逆に利益が非常に高い事業者も税務署の目に留まることがあります。「これだけ利益が出ているのはどのような経営状況か、一度確認しておこう」といった観点から、調査の対象となることもあるのです。


このように、利益が多すぎる、または少なすぎるという両極端な申告内容が、税務署の関心を引くきっかけとなることが少なくありません。もちろんそれが正当な申告であれば、利益が多くても少なくても全く問題はありませんから、堂々と申告をしましょう。

しかし、もし経費を水増ししていたり売り上げや利益を過少に申告しているのであれば、税務調査が入った際に指摘される可能性は非常に高くなります。心当たりのある方は、税務調査が入る前に税理士などの専門家に相談し、修正申告を行ったり今後の適切な申告の手助けをしてもらうなど、先んじて対策をしておきましょう。

この記事を書いた人

税理士法人T-FRONT

税理士法人T-FRONT

愛知県名古屋市、静岡県浜松市など東海地方に拠点を置く税理士法人です。
顧問税理士サービスをはじめ会社設立、創業融資、元国税庁職員による税務調査対応など、法人や個人事業主の税務・財務問題に幅広く対応。ともに伴走し、事業をともに成長させるパートナーとして日々活動しています。
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