11月29日、国税庁は税務調査にAIを導入し事例を学習させた結果、追徴課税額が過去最多になったと発表しました。
今回は税務調査に導入されたAIの詳細と、今後の税務調査がどうなるかについても解説していきます。
AIで所得税・消費税の追徴額が過去最多に
冒頭でも紹介したとおり、国税庁が昨年から税務調査にAIを本格導入した結果、追徴課税額が現在の集計方法になった09年度以降最多になったと発表しました。
以下、詳細を確認してみましょう。
ことし6月までの1年間に行われた各地の国税局の税務調査で、所得税の申告漏れを指摘して追徴課税をした額が全国で1398億円余りに上り、これまでで最も多かったことが国税庁のまとめで分かりました。国税庁は、去年から本格的に「AI」=人工知能に申告漏れの事例を学習させて税務調査を行う手法を取り入れた結果だとしています。
国税庁のまとめによりますと、各地の国税局がことし6月までの1年間に所得税に関する税務調査を60万件余り行ったところ、所得の申告漏れなどは、全国で31万1264件、9964億円に上りました。
追徴税額は、合わせて1398億円で、前の年の同じ時期に比べて30億円増え、現在の方法で統計を取り始めた2009年以降で最も多くなりました。
1件当たりの申告漏れなどの金額は、最も多かった業種が、前回と同じ、「経営コンサルタント」で3871万円、次いで「ホステスやホスト」は3654万円、3番目の「コンテンツ配信」が2381万円と、初めて上位に入りました。
国税庁は、去年から本格的に「AI」に申告漏れがあった事例を学習させ、申告書の不備が多かったりきりのよい金額で申告したりしている人や現金収入が多い業種など、申告漏れのおそれのある納税者を重点的に調べる税務調査に取り組んだ結果、追徴税額が最も多くなったとしています。
引用:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241129/k10014653461000.html
このニュース記事によると、今年6月までの1年間で所得税に関する税務調査を60万件余り実施し、所得の申告漏れが31万1264件、9964億円に上ったとのこと。
追徴課税額は1398億円で、前年比で30億円増、現在の集計方法で統計を取り始めた2009年以来過去最多の額になりましたまた消費税の追徴税額は423億円で、こちらも2009年度以来過去最多とのこと。
※AI技術で過去最高額を毎年更新中
今見てきたように、国税庁はAIやICTの導入で、申告の確認や税務調査をより効率よく行えるようになりました。
具体的には、現金収入の多い業種や申告書の不備が多い人、キリの良い金額で申告されている人など、従来から疑わしいと思われるものをAIにデータ学習されることでより効率的な業務が可能になったんだとか。
たしかに、これらは元々税務調査の対象になりやすい人や企業ではありますが、どうしても人間が作業をする分には見落としもありますし、限界もあるでしょう。
それをAIを使うことで、疑わしい個人事業主や法人を割り出す初期段階の作業やふるいにかける作業をある程度自動でできるようになるので、より効率的に・また徹底的に精査をすることができるようになるというわけですね。
ちなみに、AIの活用を本格化させたのは2021年度からで、2022年度の申告では所得税の追徴課税額が3563億円で前年度比40.5%増。こちらも追徴課税額が過去最高となっています。
つまり、国税庁はAIを本格導入して以来、毎年過去最高額の追徴課税額を更新し続けているということです。
今後の税務調査はどうなる?
これだけ成果が出ているのですから、国税庁は今後もAIやICT技術の研究・活用を進めていくことでしょう。
実際に、2021年6月には国税庁の取り組みとして「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」を公表、その後2023年6月には改訂版を公表しています。また、研究活動報告では、「ICT・AI技術の税務行政における活用可能性について-(データ分析及びその体制論を含む)-」といった論文も発表しています。
年々AI自身の機能・性能進化も進んだり、学習データの積み重ねによる制度の向上もしますから、税務調査におけるAI活用の流れは今後ますます加速していくことでしょう。
参考:税務行政のデジタル・トランスフォーメーション
参考:ICT・AI技術の税務行政における活用可能性について-(データ分析及びその体制論を含む)-
AI時代の税務調査に対応するためには
ここまで見てきたように、AIなどICT技術の活用によって、これまで見逃されていた事例も補足されるようになり、ますます事業者に対する税務調査は厳格になっていくことでしょう。
それでは、今後ますます厳しくなる国税庁や税務署に対応するためにはどうすれば良いのでしょうか?
答えはこれまで以上に適切な申告を心がける、ということ。
これに尽きます。
今回の発表からもわかるように、国税庁はAI導入以前から疑わしいと思われる事例をAIに学習させることで、より効率化し、見落としがなくなるようにしたわけです。
つまり、今まではたまたま見逃されていた、見落とされていた事例を見落としにくくなったということ。言い換えればAIで補足された事例は、仮にAIでなく人間の目でも見つかっていればほぼ確実に税務調査対象になっていた、ということでしょう。
ですから、チェックするのがAIであろうが人間であろうが、そもそも適切に申告していれば最初から税務調査の対象にはなり得ない、ということです。
またもし万が一適切に申告していたのに税務調査の対象になったとしても、所得隠しや経費水増しなどの不正を行っていないのであれば堂々と対応すれば良いだけです。申告が真っ当であれば、税務調査を受けたとしても申告漏れなどを指摘される可能性は低いでしょうから、必要以上に恐れることはありません。
ただし自分では適切に申告しているつもりでも、税務署から見ると不適切、ツッコミどころがある、という場合もあります。
特に税理士などの専門家のサポートを受けずに自己流で申告している場合、意図的に不正を働いていなくとも指摘される要素があるかもしれません。申告に不安がある場合は、確定申告だけでも税理士に依頼するなど対策をしておくと安心です。
まとめ
今回は国税庁のAI技術活用について紹介しました。
要点をまとめておきしょう。
- 国税庁がAI技術活用で追徴税額が過去最高に
- 今後もAI活用の流れは加速し事業者への目は厳しくなる
- 日々の適切な申告が一番重要、不安な場合は専門家に相談する
国税庁がAIを導入した、というとなにやらすごそうで怖い気もしますが、税務調査の方法や対象者が変わったというわけではありません。従来人間がやっていた作業をAIに任せることで業務効率を改善した、というだけです。
これまでも適切に申告していた人は、何も恐れる必要がありませんから、変わらず堂々と申告をしましょう。
逆に申告内容に不安がある場合、今後はますます厳しく見られることになりますから、状況に応じて税理士に相談するなど、早めの対策を心がけましょう。