税務調査と言えば、会社、法人に対して行われるものというイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし税務調査は法人はもちろん、個人事業主でも積極的に調査が行われています。
しかし個人で事業を営む個人事業主の人のなかには、「個人事業主にも税務調査に入られる?」「売上高が1000万円未満なら納税義務がないって聞いたような?」と、税務調査についての疑問を持つ人も少なくありません。
そこでこの記事では、個人事業主への税務調査についてご説明します。調査に入られる確率や、どんな人が調査対象となりやすいか、また、税務調査に入られないようできる対策方法をご紹介します。
個人事業主に税務調査が入る確率
結論からお話しすると、個人事業主に税務調査が入る確率は0.5~1.0%と言われています。
国税庁発表のデータで見てみましょう。令和5年5月に発表されている令和4年事務年度の情報では、申告納税額がある人が約653万人です。そして、令和5年11月発表の個人に対する実地での税務調査件数が4.6万件。ここから計算すると、個人の税務調査の確率は約0.7%となります。このほか、実地調査には至らない簡易な接触が59.2万件であり、確率としては約9%となります。
以上の結果からも、個人事業主に税務調査が入る確率が概ね0.5~1.0%と言われていることと大きくずれがないことがわかります。
ただ、あくまでこれは全ての数値を均して計算した平均値ですから、申告の内容に誤りや疑わしい点がある場合には調査の対象になる可能性が高くなるということです。
ですから、まずは誤りのない正確な申告納税をすることが大前提であり重要です。
参考:令和4事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について
※売上高が1000万円を超えなければ納税しなくていい?
「売り上げが1000万円に満たないなら納税しなくていい」、こんな話を聞いたことがある人も多いでしょう。これは、1年の課税売上高が1000万円を超えるとその翌々年から課税事業者となり消費税の支払い義務が生じる、という制度からきています。
結論、売上規模に関わらず納税は必要です。たしかに売り上げが1000万円に満たない場合、消費税の納税義務は免除されます。一方、所得税や個人事業税は1000万円を超えない場合でも所定の計算をして納税する必要があります。また消費税に関しても、近年はインボイス制度の導入で1000万円未満の売上でも納税義務が発生する事業者もいます。
また、この免税事業者の制度を利用し、ギリギリ1000万円を超えない額で過少申告を行うことで消費税の納税を逃れようとする人もいます。ですから、1000万円に少し満たないような額で申告が続いている事業者には、それがたとえ正しい申告であったとしても疑いの目が向けられやすいのです。
税務調査の対象となりやすい個人事業主は?
税務調査が入られやすい個人事業主の条件、特徴というものもあります。以下で説明します。
売上高が1000万円にわずかに満たない
前述のように、売上高が1000万円にわずかに満たないような額で申告を続けていると、故意の過少申告を疑われる可能性が高くなります。残念ながら本当にその額が正しい申告であったとしても、疑われる条件にはなってしまいます。
ですが、仮に税務調査が入ったとしても、その申告に偽りがないことを証明できれば何の問題もありませんから、過度に心配する必要もありません。
開業後3年が経過している
開業して3年が経過し、売上が伸びている個人事業主は税務調査の対象となりやすくなります。
理由としては開業後3年から消費税の課税対象となること、一般的に順調に利益が出始める時期であること、税務処理に慣れが出て誤りが出やすくなる時期であることなどが挙げられます。
法的には税務調査は5年前までの申告を遡って調査することができるので、開業して3年が経ち、かつ売り上げがある程度増えている個人事業主は、税務調査の対象になりやすいと覚えておきましょう。
インターネット取引や急成長する事業分野の個人事業主
国税庁は、インターネット上のプラットフォームを介して取引するシェアリングエコノミーなどの新分野の事業や、暗号資産などの取引を行う個人事業主に対して、資料情報の収集や分析のために積極的に調査を行っていると発表しています。
令和4年度では、民泊やカーシェアリング、クラウドソーシングといったシェアリングビジネスや、配達代行のギグワーカー、アプリ制作などのデジタルコンテンツを扱う事業者などに調査が入りました。前年、令和3事務年度と比較しても、調査件数・追徴課税額ともに増えています。
参考:令和4事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について
申告漏れが多い業種である
国税庁発表の資料では、申告漏れ所得金額が高額な業種の上位10業種が発表されています。
この中に該当する事業をおこなっている個人事業主は、やはり必然的に税務調査の目が向けられやすいと言えるでしょう。
令和4年事務年度の上位10業種は以下となっています。
順位 | 業種 | 1件あたりの申告漏れ所得金額(万円) | 1件あたりの追徴税額(万円) | 前回順位 |
---|---|---|---|---|
1 | 経営コンサルタント | 3,367 | 676 | 1 |
2 | くず金卸売業 | 2,483 | 952 | – |
3 | ブリーダー | 2,075 | 454 | 3 |
4 | 焼肉 | 1,611 | 319 | – |
5 | タイル工事 | 1,598 | 266 | – |
6 | 冷暖房設備工事 | 1,520 | 287 | 15 |
7 | 鉄骨、鉄筋工事 | 1,440 | 261 | – |
8 | 太陽光発電 | 1,391 | 289 | – |
9 | バー | 1,391 | 250 | – |
10 | 電気通信工事 | 1.374 | 223 | 13 |
現金での取引が多い
現金で取引をすることが多い事業は、領収書の改ざんなどの証拠も残りにくく、脱税を疑われやすくなります。
前述の申告漏れの多い業種のうち、飲食店や建設関係は現金取引の多い業種の代表です。領収書の裏付けや帳簿の作成を怠らないなど、日々の業務を管理徹底する必要があります。
経費に不審な点がある
事業に関係のなさそうな経費が計上されている場合はもちろん、事業に必要と予想される経費が何も計上されていない場合も税務調査が入る可能性があります。
たとえば、「一般的には交際費が少なそうな事業なのに会食の機会が多い場合」などは、「プライベートの食事会も経費として計上しているのでは?」などと疑われることがあります。
故意ではない場合も、事業に関する支出とプライベートの支出が同じクレジットカードで引き落とされている場合などは要注意です。
事業に関するものとプライベートで、都度領収書を分けておくなど工夫が必要ですね。
顧問税理士がいない
申告を税理士に依頼せずに自身でおこなっている場合は、申告内容に誤りが出やすくなるのはもちろん、故意に脱税を行う可能性も高い、と判断され税務調査に入られやすくなります。
申告を税理士が行ったかどうかは、確定申告書に担当した税理士の名前などを書く欄があるため一目瞭然です。
税務調査に入られないための対策
個人事業主が税務調査に入られないためにできる対策は、まず第一に、正しく誠実な申告をすること、これに尽きるといっても過言ではありません。
正しい申告のためには、
- 領収書など証拠、裏付けとなるものをきちんと保管しておく
- お金の流れがわかるよう、日々の帳簿管理を徹底する
- 経費計上できるものとその種類を把握する
- 専門家である税理士に依頼する
以上のような対策が大切になります。
たとえばひとくちに“経費”といっても、自分では判断に迷うことも少なくないでしょう。このような税務に係る小さな疑問の解決から、万が一の税務調査時の対応に至るまで、頼れる税理士を決めておくのも非常に有効な対策です。
まとめ
今回は、個人事業主の税務調査についてご紹介しました。
あらためてポイントを整理しておきましょう。
- 個人事業主の税務調査の確率は0.5~1%
- しかし、対象はランダム選出ではないため疑わしきものには調査が入る
- 売上1000万円弱は消費税逃れを疑われやすい
- 開業して3年かつ売り上げが伸びていると税務調査の確率は高まる
- 現金取引、新分野事業など税務調査に入られやすい業種がある
- 正確で誠実な申告が一番の対策
- 顧問税理士をつけるのも非常に有効
売上高や業種など、それだけで税務調査が入られやすい条件というのも残念ながら存在します。ですが、税理士をつけて正確な申告をしているだけで、「この事業主はきちんとした経営をしている」と疑われる確率を下げることができるのも事実です。
まずは日々の帳簿管理、証拠となるものの整理や保管の徹底など、経営の中でできる税務調査対策をコツコツと積み上げていきましょう。そして、専門知識も必要となる税務関連は頼れる税理士に任せるなど、安心材料としての税務対策を行ってみてはいかがでしょうか。