- フリーランスとして事業が軌道に乗ってきたので、法人化を考えたい
- 一人で会社を始めたいけど、何から手をつければいいかわからない
そんな悩みを抱える方にとって、「一人会社」は非常に有力な選択肢です。
一人会社とはオーナー社長が一人で事業を行う会社形態の通称で、「マイクロ法人」とも呼ばれます。
この記事では、専門家の調査報告書や公的機関の情報に基づき、一人会社の設立を検討しているあなたが知りたい情報を網羅的に解説します。
マイクロ法人について過去に公開していますので、参考にしてください。
一人会社と個人事業主、どっちがいい?7つの違いで比較
一人で事業を行う際、最初の岐路となるのが「個人事業主」と「一人会社(法人)」の選択です。
両者の最も根本的な違いは、事業の主体が「個人」か「法人(個人とは別人格)」かという点にあります。
この違いが、責任、税金、信用力など多岐にわたる差を生み出します。
比較項目 | 一人会社(法人) | 個人事業主 |
---|---|---|
①法的地位 | 法人(個人とは別人格) | 個人 |
②責任の範囲 | 有限責任(出資額の範囲内でのみ責任を負う) | 無限責任(事業上の負債は個人の全財産で返済義務を負う) |
③税金 | 法人税が課される。社長への役員報酬は会社の経費になる。 | 所得税が課される。利益全体が個人の所得となる。 |
④社会保険 | 社長一人でも健康保険・厚生年金への加入が義務 | 国民健康保険・国民年金に加入(常時使用する従業員が5人未満の場合など) |
⑤社会的信用度 | 一般的に高く、融資や大手企業との取引で有利になることがある。 | 法人に比べると低い傾向にある。 |
⑥設立費用 | 株式会社:約20~25万円以上、合同会社:約6~10万円以上 | ほぼ不要(開業届の提出のみ) |
⑦廃業の手間 | 解散・清算手続きが必要で、時間と費用がかかる。 | 廃業届の提出のみで比較的容易。 |
法人化を検討すべきタイミングは?
一般的に年間の事業所得が800万円を超えてくると、個人の所得税率が法人税率を上回る可能性があるため、法人化を検討する一つの目安とされています。
所得税は所得が増えるほど税率が高くなる累進課税であるのに対し、法人税は原則として一定の税率だからです。
法人化すると社会保険料の負担が増加する一方、給与所得控除が適用されるなど、考慮すべき点は多岐にわたります。
有限責任というリスク管理や社会的信用といった金銭以外のメリットも含め、税理士などの専門家と相談しながらシミュレーションを行い、慎重に判断することが重要です。
株式会社、合同会社、一人会社に最適な形態はどっち?
一人会社の設立形態は、実質的に「株式会社」と「合同会社」の二択です。
あなたの事業計画や価値観によって、最適な選択は異なります。
コストと経営の自由度を重視するなら「合同会社」
2006年の会社法で導入された比較的新しい形態で、設立・運営コストの低さと手続きのシンプルさが最大の魅力です。
- 設立費用が圧倒的に安い:定款の公証人認証が不要なため、登録免許税(最低6万円)と合わせて約6万~10万円で設立できます。株式会社に比べ10万円以上安くなります。
- 運営コストと手間を削減:役員に任期がないため更新登記が不要で、法律上の決算公告義務もありません。
- 経営の自由度が高い:利益の配分方法などを定款で柔軟に決めることができます。
「まずはスモールスタートで始めたい」「コストを極限まで抑えたい」「外部からの資金調達は考えていない」という方に最適な形態です。
社会的信用と事業の拡大を目指すなら「株式会社」
日本で最もポピュラーで、盤石の社会的信用度を誇る会社形態です。
- 社会的信用度が最も高い:歴史と知名度から、金融機関からの融資や大企業との取引、人材採用において有利に働くことがあります。
- 資金調達の選択肢が豊富:株式を発行して外部から出資を募ることが可能です。将来の事業拡大や株式公開(IPO)を視野に入れるなら、株式会社一択です。
設立費用は定款認証手数料(約5万円)や登録免許税(最低15万円)などで約20万~25万円以上かかりますが、そのコストに見合う社会的信用と将来性を得ることができます。
一人会社設立の5ステップ|具体的な手続きと費用
一人会社の設立は、ポイントを押さえれば自分で行うことも可能です。
ここでは、法務局などが示す標準的な流れを5つのステップに分けて解説します。
STEP1:会社の基本事項を決める
商号(会社名)、事業目的、本店所在地、資本金額、事業年度などを決定します。
商号は、同一の住所で同じ名前は登記できません。事業目的は、将来行う可能性のある事業も記載しておくのが一般的です。
STEP2:定款を作成し、認証を受ける
会社の根本規則である「定款」を作成します。
株式会社の場合は、作成した定款を公証役場で認証してもらう必要があります(手数料約5万円)。
電子定款を利用すれば、紙の定款で必要になる収入印紙代4万円が不要になり、コストを節約できます。
STEP3:資本金を払い込む
設立者個人の銀行口座に、定めた資本金を振り込みます。
この時点ではまだ会社の口座はないため、個人口座を使用します。
登記申請時に、この通帳のコピーが払込を証明する書面として必要になります。
STEP4:法務局で設立登記を申請する
必要書類を揃え、本店所在地を管轄する法務局へ設立登記を申請します。
この申請日が会社の設立日となります。
申請時には登録免許税(株式会社は資本金額の0.7%で最低15万円、合同会社は同じく0.7%で最低6万円)の納付が必要です。
STEP5:設立後に各所へ届出を行う
登記完了後、速やかに以下の届出を行います。提出期限が短いものもあるため注意が必要です。
- 税務署:法人設立届出書、青色申告の承認申請書など
- 都道府県・市町村:法人設立届出書
- 年金事務所:健康保険・厚生年金保険の新規適用届(設立から5日以内)など
一人会社の運営で注意すべき3つのポイント
会社は設立して終わりではありません。
運営していく上で、特に一人会社の社長が注意すべき法的な義務や手続きについて解説します。
税金:役員報酬のルールは厳格
社長への給与である「役員報酬」は、会社の経費(損金)にでき、節税の要となります。
ただし、経費として認められるためには、原則として「毎月一定額を支払う(定期同額給与)」必要があります。
この金額は事業年度開始から3ヶ月以内でないと変更できず、恣意的な利益調整を防ぐための厳格なルールとなっています。
社会保険:社長一人でも加入は義務
一人会社を設立すると、たとえ従業員がおらず社長一人であっても、健康保険と厚生年金保険への加入が法律で義務付けられています。
保険料は役員報酬の額(標準報酬月額)に応じて決まり、会社と個人で折半して負担します。
実質的には全額自己負担となりますが、将来の年金受給額が手厚くなる、社会保険料の会社負担分は経費になる、といったメリットもあります。
法務:経営者としての「善管注意義務」
会社の取締役は、会社に対して「善良な管理者の注意をもって」職務を行う義務(善管注意義務)を負っています。
一人会社であってもこの義務は免除されません。
会社と個人の財産を混同したり、著しく不合理な経営判断で会社に損害を与えたりした場合、損害賠償を請求されるリスクがあります。常に会社の利益を考えて行動することが求められます。
一人会社の資金調達~使える公的融資と補助金~
創業期の資金調達は、事業の成否を分ける重要な要素です。
一人会社でも活用できる、有利な公的支援制度が存在します。
- 日本政策金融公庫「新規開業資金」
政府系金融機関である日本政策金融公庫は、創業者向けの融資に積極的です。
「新規開業資金」は、新たに事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、無担保・無保証人で利用できる場合があります。
融資審査では事業計画書の具体性と実現可能性が重視されるため、専門家のアドバイスを受けながら作成するのがお勧めです。
- 地方自治体の制度融資・補助金
都道府県や市区町村が、独自の融資制度や補助金を設けています。
お住まいの地域の自治体ウェブサイトや商工会議所で確認してみましょう。
一人会社に関するよくある質問
Q1. 一人会社の資本金はいくらがいいですか?
法律上は1円から設立可能ですが、対外的な信用度や当面の運転資金を考慮し、一般的には10万円~100万円程度で設定するケースが多いです。
なお、資本金が1,000万円未満の場合、原則として設立から最大2年間は消費税の納税が免除されるメリットがあります。
Q2. 赤字でも税金はかかりますか?
法人税は会社の所得に対して課されるため、赤字の場合はかかりません。
しかし、所得に関わらず資本金の額などに応じて課される「法人住民税(均等割)」があり、最低でも年間約7万円の支払いが必要です。
Q3. 一人会社が従業員を雇うときの手続きは?
従業員を一人でも雇用すると、労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きが必要になります。
また、勤務時間などの条件を満たす従業員は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入も義務となります。
Q4. 一人会社を辞めるときはどうすればいいですか?
事業を停止するだけでは会社は存続し、税金の支払い義務も残ります。
会社を法的に消滅させるには、株主総会での解散決議、法務局への解散・清算登記、官報公告などの正式な手続きを踏む必要があり、費用と時間がかかります。
【まとめ】一人会社設立は、専門家と相談しながら慎重に
この記事では、一人会社の設立から運営、資金調達に至るまで、網羅的に解説しました。
一人会社は、有限責任によるリスク軽減、社会的信用の獲得、税制上のメリットなど、個人事業主にはない多くの利点を提供してくれます。
一方で、設立・運営コストの発生や、社会保険・税務に関する厳格な義務も伴います。
事業内容や将来のビジョンに応じて、株式会社と合同会社のどちらを選ぶか、どのタイミングで法人化するかを慎重に判断することが、事業成功の第一歩です。
そして、設立手続きや税務、法務には専門的な知識が不可欠です。
少しでも不安な点があれば、司法書士や税理士といった専門家に相談し、万全の体制であなたのビジネスをスタートさせましょう。