相続税の税務調査はいつ来る?時期や割合、対象に選ばれやすい家庭などポイントを解説。


相続税は、納税者が自身で計算をして申告、納税をする「申告納税」という形をとっています。税理士を頼らずに自分ひとりで申告をするとなると、よほど税についての知識がない限り申告内容に誤りが見つかることも多く、さらには故意に過少申告をするケースも見受けられます。

このような事態を野放しにしていては、本来納めてもらうはずの額よりも少ない納税が増え、ひいては国の税収に影響が出てしまうことに。そのため、税務署では疑いのある申告については税務調査を行っているのです。そこで誤りが認められれば、本来の納税額にプラスして、加算税や延滞税をペナルティとして納税することになってしまいます。

そこでこの記事では、相続税の税務調査についてご紹介します。相続税の税務調査の実態や、調査が入りやすい人の条件、正しい申告のために気をつけたいポイントなどもあわせてお伝えします。


相続税の税務調査の基本


冒頭でお伝えしたとおり、相続税は納税者が自身で計算をして申告、納税をする「申告納税」です。納税者の自己申告による納税となるので、その納税額が本当に合っているのかを確かめる必要があります。

税務署はKSKシステム(国税総合管理システム)というデータベースで、国民一人一人の財産をおおよそ把握しています。相続を受けた相続人の申告内容が、亡くなった被相続人の生前の収入や資産の状況から見て疑わしい部分がある場合、税務調査をして、相続の中身を明らかにしなくてはなりません。


税務調査の種類


調査は、電話や書面でのやり取りや税務署での面接など簡易的なもので終了する場合や、税務署の職員が自宅(相続した住居)などに訪問し、相続人と弁護士が同席しながら1日がかりで行われる場合もあります。

調査の結果、申告漏れの相続財産があった場合や、故意に相続財産を少なく申告したことがわかれば、加算税や延滞税をペナルティとして納税する必要があります。


相続税の税務調査率


相続税の税務調査率は約20%くらいといわれています。4~5件に1件は調査が入るということです。

令和5年12月に国税庁から発表されたデータによると、令和4年事務年度の相続税の実地調査件数は、8,196件とのこと。これは、令和3年事務年度に比べて129.7%となっています。

コロナ禍には税務署の実地調査件数もやはり減少したという背景がありましたが、コロナによる世間の動きが落ち着き始めたいま、少しずつコロナ前の調査件数に戻りつつあります。


相続税の税務調査の時期


相続税の税務調査は、申告の1~2年後に行われることが多いと言われています。

ただし、2年経って調査が来なかったらもう安心、というわけではありません。税務調査の時効は申告期限から5年なので、この期限内であればいつでも調査に入られる可能性があります。そしてさきほども説明しましたが、いざ税務調査が入った際に誤りを指摘されると、ペナルティとして追徴課税が課されます。

ですから申告漏れや誤り、虚偽の申請など心当たりがある場合は、「まあこれくらいいか」「しばらく経っても来なかったしもう大丈夫だろう」と判断するのではなく、税務調査に入られる前に自主的に申告することが重要なのです。


申告漏れなどの非違件数


税務調査が入ると、実にその約8割に申告漏れなどを指摘され、追徴課税を受けています。令和4年事務年度においては、実地調査件数8,196件のうち7,036件に申告漏れなどが見つかり、非違件数は87.6%にものぼっています。

電話や書面、面接などの簡易的な調査においても、15,004件のうち3,685件に非違が指摘されています。この簡易的な調査による課税価格と追徴税額合計は、いずれも事績の公表を始めた平成28事務年度以降で最高となっています。

参考:令和4事務年度における相続税の調査等の状況


相続税の税務調査が入りやすい人5選


税務署には被相続人の収入や不動産などの資産状況を把握しているとお伝えしました。さらに、被相続人の家族構成なども踏まえ、おおよその遺産総額を押さえています。

そこで、予想されていた遺産総額に比べ、申告された相続資産が明らかに数ない場合などは税務署に目を付けられてしまいます。ほかにも、以下のような人は税務調査の対象となりやすいのでチェックしてみましょう。


無申告の人


申告するべき相続資産があるのにも関わらず、申告をしない人はもちろん税務調査の対象となり得ます。

相続税には基礎控除があります。


3,000万円+600万円×法定相続人の数


上記の式に当てはめて計算し、この基礎控除枠を超えなければ申告の必要はありません。

ただ、計算式に当てはめるべき被相続人の資産が漏れており、正しく計算ができていなかった…といったケースなど、思わぬ見落としがあることも。基礎控除枠の範囲内だからと安心していたら、忘れたころに突然税務署からの連絡が来てしまう、なんてことよくある事例なので注意が必要です。


申告内容に誤りがある人


相続税の申告は相続人が自分自身で計算したうえで申告します。そのため、計算誤りなどのミスに気がつかないまま申告してしまうことも少なくありません。

その誤りの額が大きい場合などは、故意に相続資産を過少申告しているのでは?という疑いの目を向けられるのも無理はありませんね。


税理士をつけずに自分で申告した人


相続税の申告書は実に15種類以上も記入しなくてはなりません。これだけでも申告は大変そうだと感じますよね。

申告書類には、担当した税理士が署名・押印する欄があります。つまりここが空欄の人は、税理士を付けずに自身だけで申告したのだとすぐわかるのです。

専門的な内容の申告書類を、税の専門家である税理士が担当して申告した場合と、素人が一人で申請した場合…どちらが信頼に足るかはあきらかですよね。つまり税理士に依頼せず自力で申告するということは、それだけで「誤りが見つかるはずに違いない」と目を付けられやすいのです。


家族名義の資産が多い人


被相続人の家族が名義になっている資産が多い場合も調査の対象となりやすくなります。

相続人本人が高所得者などの場合は別ですが、この収入でこの資産を築くことは通常難しいだろう、と判断される場合などは、被相続人の資産が移動しただけでは?と疑われてしまうのです。夫が亡くなった専業主婦の妻の口座に数千万円の残高があるのはどうして?という具合です。

ただし、生前にきちんとした贈与をおこなっている場合などはもちろん問題ありません。


入出金が多い人


生前の入出金が多い場合も調査の対象となりやすくなります。

特に、被相続人の口座からの出金が多いのに、その出金同等の資産が見つからない場合、申告から漏れているのではとチェックが入ります。ここで、この出金を元としたと思われる家族名義の資産が生まれている場合は調査対象になるでしょう。

もちろん、この場合も生前贈与の手続きなどが適正に行われていれば問題ありません。


税務調査を回避!やっておくべきポイント


税務調査を避けるためには、正しく相続税の申告を行うことが最重要です。

しかし、いくら正しい申告をしようとしても、相続人が知らないところに被相続人の財産があった、などの場合は申告漏れにつながりやすくなりますよね。実の親であっても、所有している財産をすべて子に明らかにしていないことは少なくなく、そのまま亡くなってしまったり、認知症のために意思疎通ができなくなることもあるのです。

そこで、自身や親族が生前、元気なうちからできる相続税の税務調査対策のポイントをおさえておきましょう。


所有財産の洗い出し


まずは、被相続人の所有している財産をすべて把握することから始まります。資産となるものはもちろん、借金など債務の状況も含めて確認します。

口座にある預金額については、ネット銀行の残高も忘れずにチェックします。同じく、電子マネーなどデジタル資産についても見落とさないようにしましょう。所有している不動産、有価証券、生命保険などは証券などの書類をそろえておきます。

このほか見落とされがちなのが現金です。年配者のなかにはタンス預金をしている人も多く、へそくりとしてコツコツ貯めている場合は本人以外知り得ないことも多くありますね。税務調査の場面になって多額の現金が出てきた!なんてことも少なくありませんので、タイミングを見てご家族が把握することが必要となります。

このタンス預金については、亡くなった夫の稼ぎから妻がコツコツ貯めていた場合、それは夫の財産とみなされ相続税の対象となることもあります。

そして、債務状況についてですが、どこからいくら貸付を受けているのかなどの把握が必要です。金銭消費貸借契約書や返済予定表で確認できます。


不明な入出金を精査する


銀行の通帳などをさかのぼり、不明なお金の動きがあればその内容を明らかにしておきましょう。出金額相当の資産が確認できなければ、調査の対象になりやすくなります。


名義預金のチェック


家族名義でありながら、管理していたのは被相続人であった場合はそれも相続税の対象となります。

配偶者や子、孫の名義で口座を作り預金をしていくというのはごく一般的な話です。しかし、この預金の本出が被相続人ならば、それは被相続人の財産とみなされてしまいます。

名義預金については、相続した資産に含めるか、贈与を成立させて贈与税を支払うか、ということで解決していきます。

タンス預金や名義預金については一般的に行われていることが多く、税務調査で指摘されることも多いものです。これらのお話については、また別の記事でご紹介することとしましょう。


まとめ


今回は、相続税の税務調査の実態や調査が入りやすい人の条件、正しい申告のために気を付けたいポイントをお伝えしました。

要点をまとめると、


  • 相続税の税務調査率は約20%
  • 調査に入られた9割近い人が追徴課税を受けている
  • 相続税には基礎控除枠がある
  • 申告漏れの財産がないよう生前に確認しておく
  • 申告はプロの税理士に依頼する


以上となります。

正しい申告をしていれば、他の税の申告と同様、相続税でも必要以上に税務調査を恐れる必要はありません。ただし、財産の把握から申告には相当の知識が必要となります。

税理士を付けずに自分で申告するだけで税務調査の対象となり得る相続税の申告。相続財産は必然的に金額が大きくなりがちだったり、自分では判断しかねる財産があることも多いため、特に税理士を利用するメリットは大きいでしょう。

また場合によっては、税理士が「書面添付制度」を利用し、申告書だけでは伝わらない部分を税務署に申告してくれます。これによって、税務署から税理士に内容についての確認を行います。ここで不明点が解消されれば、税務調査に入る理由が一つずつ消えていくことになります。

相続税を正しく申告し、万が一の税務調査にも対応するのなら、税のプロである税理士に依頼するのが一番の対策です。多少の依頼費用は発生しますが、結果として税理士報酬以上の財産を守ることができるのです。

税理士を上手に利用することで、手間や労力を省き安心を手に入れましょう。


この記事を書いた人

税理士法人T-FRONT

税理士法人T-FRONT

愛知県名古屋市、静岡県浜松市など東海地方に拠点を置く税理士法人です。
顧問税理士サービスをはじめ会社設立、創業融資、元国税庁職員による税務調査対応など、法人や個人事業主の税務・財務問題に幅広く対応。ともに伴走し、事業をともに成長させるパートナーとして日々活動しています。
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