税務調査は法人こそ対策が必要!注意したい業種と調査される理由を解説

税務調査を受けやすい法人の業種と特徴、対策も紹介


税務調査は、企業・法人や個人事業主が適切に納税義務を果たしているかを確認するために行われる重要な手続きです。

しかし、必要な調査とはいえ、事業者の立場からするとどうしても「怖い」「恐ろしい」とネガティブな印象を抱いてしまうもの。実際に同業の経営者から「税務調査が入って多額の追徴課税を課せられた…」なんて噂を耳にして、「次は自分の番ではないか?」と不安に思っている人もいるでしょう。特に不正をしていなくても、税務調査が来る=お金をたくさん取られてしまう…なんてイメージが先行していますから、どうしても不安に思ってしまいますよね。


そこで本記事では、税務調査の頻度から調査が多い法人の業種のランキングやその特徴について詳しく解説し、それぞれの業種がどのような理由でターゲットになりやすいのか、また、どのような税務上の問題が発生しやすいのかをわかりやすく説明します。


税務調査の頻度と割合


税務調査の頻度は一般的に、平均すると10年に一度程度と言われています。

令和5年11月の国税庁発表『令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要』によると、令和4年度の調査件数は約6万2000件で、法人税の申告件数は約313万件ということで、計算すると1.980…≒約2%の割合で税務調査を受けています。ちなみに個人の調査件数は約0.5%です。

参考:令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要

上記の頻度や確率を高いと見るか、低いと見るかはそれぞれですが…事業を営んでいる限り、誰でも(どんな会社でも)調査の対象になる可能性があるのは間違いありません。


最新版!税務調査が多い業種のランキングトップ10


今見てきたように、法人では概ね2%の確率で税務調査を受ける可能性があるわけですが、特定の業種においては特に調査が頻繁に行われる傾向があります。

以下は令和4年度の税務調査で不正の発覚割合が多かった業種の上位10位までのランキングになります。


順位業種不正割合前回順位
1その他の飲食36.2%5
2廃棄物処理29.4%
3中古品小売28.7%
4土木工事28.1%4
5職別土木建築工事27.7%3
6医療保健27.6%2
7一般土木建築工事26.8%9
8管工事26.5%
9自動車、自転車小売25.1%
10美容25.0%6
引用:令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要


いかがでしょうか?イメージ通りのものもあれば、意外なものもあるかもしれません。実際、前年度もランキング入りしている常連の業種もあれば、前回はランク外だったものが入ってきたりと、調査年度によってばらつきはあるのですが。

上位10位までは実際に調査に入った際の不正の発覚割合が25%以上、1位に至っては36.2%と、実に1/3以上の事業者で不正が発覚しています。こうした不正が多く見つかる業種では、必然的にマークもされやすくなり、税務調査の頻度が増える傾向にあるでしょう。


税務調査が多い業種の特徴


もう少し税務調査が入りやすい業種について、深堀していきましょう。表で確認したように、税務調査が多い業種としてよく挙げられるのは「建設業」「飲食業」「小売業」などがあります。これらの業種は一見バラバラのように見えて、いくつかの共通点があります。以下で説明していきます。


現金取引が多い


まず、わかりやすい共通点としては、現金取引が多い点が挙げられます。建設業や飲食業、小売業では、日常的に現金での取引が頻繁に行われます。現金取引が多いと、売上の過少申告や経費の過大申告といった不正が行いやすくなり、その結果、税務当局からの監視が強化されることになります。


帳簿管理が曖昧


次に、帳簿や領収書の管理が難しいという特徴があります。たとえば、飲食業では毎日の売上や仕入れが細かく分かれており、これらを正確に記録し管理するのは困難です。帳簿管理が曖昧になりがちなため、税務調査の際に不備が発覚しやすくなります。


事業規模の異なる企業が多数存在する


さらに、業界全体として規模の大小が混在しているところも共通点です。特に小規模な事業者は税務に関する知識やリソースが不足している場合が多く、結果として税務申告に不備が生じる可能性が高まります。


こうした「叩けばホコリが出る」ような確率が高そうな業種は、税務調査のターゲットになりやすいという事実があります。


税務調査の対象を決める仕組み


上で紹介したように、業種によって税務調査を受けやすい・受けにくいといった傾向は確実に存在します。

とはいえ、税務調査を受けやすい、ターゲットになりやすい業種だからといって全ての会社が税務調査を受けるわけではありません。さきほども説明したように、税務調査を受ける割合は概ね2%程度ですから、単純に年数で換算すると50年に一度の確率で自社に税務調査が入ることになります。

実際には、10年以上税務調査がない会社もあれば、毎年のように調査を受ける会社もあります。

ではこれらの税務調査を受ける会社・受けない会社の違いは何なのでしょうか。税務調査の対象となる仕組みと一緒に見ていきましょう。


国税総合管理(KSK)システムの活用


まず、税務調査の候補選定にあたっては、『国税総合管理システム(KSKシステム)』が用いられます。KSKシステムは、全国の国税局と税務署とをネットワークでつなぎ、全ての申告者の申告(決算)データを管理する基幹システムです。当局は、まずこのKSKシステムで調査対象の候補をピックアップします。


国税のkskシステム概要
引用:財務省『国税総合管理(KSK)システムの概要』


税務署職員による調査・分析


さらに機械的な抽出だけではなく、税務署の職員による長年の経験や知識を用いた調査・分析もふまえて、最終的な調査対象先を決定します。

機械によるデータ処理と人間の定量化できない経験といった二段構えで調査対象を絞るので、精度の高い対象選定が可能になるというわけです。


税務調査のターゲットにされやすい法人の特徴とは?


税務調査の対象先選定の仕組みを理解したところで、「具体的にどんな法人(会社)が対象になりやすいのか?」を、さきほど紹介した業種という共通点以外で詳しく見ていきましょう。


黒字の会社


まず、赤字の会社と黒字の会社では、黒字の会社のほうが税務調査が入りやすいと一般に言われています。

税務調査の目的は適切に税の申告が行われているかの調査ですが、それはつまり不正を発見し、より多くの税の徴収をしたいということです。実際、税務署や国税局の調査官は公務員ですがノルマが存在します。であれば、赤字の会社では空振りに終わる可能性も高く、仮にミスや不正があったとしても無い袖は振れないので実質的に徴収は困難になります。

そう考えると、必然的により税の徴収をしやすい黒字の会社のほうに調査が入りやすいというのも頷けます。


規模の大きな会社


次に、事業規模の大きな会社。

これも黒字の会社と本質的には同じ理由ですが、事業規模が大きいということはすなわち取引額や売上も大きいということ。そうなれば、少しのミスや不正でも納税額が大きくなります。さきほどもお話したように、調査官も「取れるところから確実に取りたい」という事情がありますから、効率を考えるとより規模の大きい会社のほうが調査を受けやすいでしょう。


変動の大きな会社


また、前年と比較して大きく業績に変動があった会社も注意が必要です。

売上が急激に大きく伸びた(減った)場合、それに伴って不正も行われやすいため、調査の対象になりやすいと言われています。また売上が伸びているのに利益率が下がっている、など正常な範囲から逸脱している“異常値”が見られると、不正があるのではないかと疑われ調査の対象になります。


同業他社と比べて利益率が低い会社


関連して、同業他社との比較も重要になります。売上に対する利益率などは、業種やビジネスモデルによって概ね決まってくるので、必然的に同業他社とは利益率や収益構造が似通ってくるもの。

しかし、売上はあるのに特定の経費が以上に多かったり、利益に同業他社と比べて明らかな異常が見られると売上のごまかしや経費の水増しを疑われて調査の対象となります。


過去に追徴・重加算税を課せられた会社


そして、過去に追徴課税や重加算税を課された会社は要注意の対象としてマークされます。これはある意味仕方がないことですが、以前重大なミスや不正があったところはまた同じことをやるのではないか?と厳しくチェックされるようになります。

税務調査対策は必須!注意点と対策方法


ここまで税務調査を受けやすい法人の特徴を詳しく見てきましたが、できれば誰しも調査は受けたくないものですよね。

そこでここからは、税務調査をなるべく回避したり、いざ税務調査を受けることになっても慌てることのないよう事前にできる対策を説明していきます。


不正な売上操作・経費水増しはしない


まず当たり前ですが、売上を意図的に低くしたり、経費を水増ししたりといった不正行為は絶対にやめましょう。

さきほどから説明しているように、税務調査は膨大なデータの機械的処理と調査官という税の専門家という隙のない体制で常に目を光らせています。ですから、雑な売上の操作など不自然な動きがあれば一発でバレてしまいます。

また、グレーゾーンな節税方法も鵜呑みにするのは危険。特に最近はインターネットの発達で誰でも情報を調べることができますし、SNSでは税に関する情報を発信している人もたくさんいます。しかし、それらの情報は根拠が無いものだったり誤情報も多く含まれていて、グレーどころか真っ黒、最悪脱税に繋がるものも存在します。それらの情報を鵜呑みにして、知らず知らずのうちに脱税してしまっていた…なんてことがあっても、税務署は許してくれません。

インターネット上の情報などは特に発信元を注意深く確認して見極めるようにしましょう。


帳簿・資料の保存


これも当然のことですが、帳簿や領収書などの資料は日々まめに整理して、保存しておきましょう。

現金取引の多い業種は調査に入られやすいというのはすでにお伝えしたとおりですが、いざ調査に入られたとき、正しい申告を証明するための証拠資料が無ければ戦うこともできません。また帳簿を付けていたとしても、その帳簿がずさんなものであればそこから重箱の隅をつつくように細かく指摘事項を見つけられ、結果として修正申告や追徴課税といった判定を受けることにもなりかねません。

逆に言えばミスや不正のない帳簿・資料であれば指摘のしようもありませんから、普段からきちんと申告に関わる資料は整理しておくのが重要です。


税務調査に強い顧問税理士を付ける


税務調査に強い顧問税理士がいると、いざというときも安心です。

まず、そもそも「顧問税理士」が付いていること自体が、自分で申告しているよりも調査の対象になりにくいと言われています。これは税理士という専門家のお墨付きを貰った申告ということですから、ミスなども見つけづらく、つまりは税務調査をしても無駄になる可能性が高いということです。

法人であれば当初から顧問税理士が付いていることが多いですが、最近ではクラウド会計ソフトなどの発達によって、法人でも税理士などを付けず自力(自社)で申告している人も増えています。ただ、顧問税理士による申告であれば、プロによる適切なアドバイスによってより大きな節税効果が期待出来たり、最大限会社に利益を残す申告が可能になりますので、やはり複雑な法人の決算申告は専門家に任せるのがおすすめです。


特に、税務調査の経験豊富な税理士が顧問であれば、万が一税務調査を受けることになっても安心です。

税務調査は、税の専門家である調査官と対峙することになります。ここで、税の専門家ではない一般的な経営者が自分で対応するとなると、巧みな誘導によって不利な発言を引き出されたりと、調査官の思うように調査を進められてしまう可能性もあります。

しかし税務調査に強い顧問税理士がいれば自社に代わって対応をお願いできますし、過去の経験や実績から本来不要な要求を断ったり、正当な反論ができるため税務調査による追徴課税のリスクを最大限抑えることができます。

全て自力で対応しようとすると、結果的に税理士費用とは比較にならないくらい多額な税金を納めなければいけなくなる可能性も十分にありますから、しっかりと顧問税理士に日々の申告から依頼するのが安心です。


まとめ


今回は税務調査を受けやすい法人の業種や特徴と、その対策について説明しました。

要点をもう一度まとめておきましょう。


  • 税務調査を受ける法人の割合は全法人中約2%
  • 業種や事業形態によって調査を受けやすい法人もある
  • 調査のリスクを最大限減らすために日々の対策と専門家への相談が重要


税務調査は事業活動をしている限りどの企業も対象になり得る避けて通れない現実ですが、事前に適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に軽減することができます。特に現金取引が多い業種や取引形態が複雑な業種では、税務調査の対象となりやすいため、日常的な会計処理の正確性や透明性を確保することが求められます。

また、税務に関する最新の法令や規制を把握したり、申告の際には専門家のアドバイスを受けることも重要です。税理士や会計士への定期的な相談や、税務に関するセミナーや研修に参加し適切な対策を講じるなど、不正行為の防止や財務の透明性を確保していきましょう。こうした日々の対策からミスなく正しい申告を行っていれば税務署からの信頼を得ることもでき、調査の頻度や厳しさを軽減することにも繋がります。特に経理体制の整備や専門家との連携を強化することで、税務調査の際にスムーズな対応が可能となることでしょう。

税務調査は企業にとってストレスとなるイベントですが、適切な対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることができます。日頃からの準備と専門家の支援を受けることで、税務調査に対する備えを万全にし、企業の信頼性と健全な経営を維持していきましょう。


この記事を書いた人

税理士法人T-FRONT

税理士法人T-FRONT

愛知県名古屋市、静岡県浜松市など東海地方に拠点を置く税理士法人です。
顧問税理士サービスをはじめ会社設立、創業融資、元国税庁職員による税務調査対応など、法人や個人事業主の税務・財務問題に幅広く対応。ともに伴走し、事業をともに成長させるパートナーとして日々活動しています。
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