会社を設立する際、いくつかある法人の形態から選択することになります。
もっとも一般的な株式会社の他、最近ではその手軽さから合同会社を選択する事業体も増えています。
ただ、現在設立できる会社形態は株式会社や合同会社以外にも「合資会社」「合名会社」という形態が存在します。
株式会社などに比べてこのふたつはあまり聞きなれない、聞いたことはあるけどどんなものかわからない…という人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は会社設立時に選択できる「合資会社」「合名会社」について詳しく解説していきます。
合資会社とは
まずは「合資会社」について説明していきましょう。
合資会社とは、事業を行う無限責任社員と出資をする有限責任社員で構成される会社です。
原則として有限責任は資金を提供するスポンサーであり経営には関わらず、実際の経営に関わる業務は無限責任社員が行います。
出資者と経営者が区別されているという点では株式会社の構造と似ている部分があるでしょう。
また、無限責任社員と有限責任社員どちらも1名以上が必要であるため、最低でも2名の社員が必要となります。
合名会社とは
合名会社とは、出資者全員が無限責任社員で構成される会社です。
社員一人ひとりが「代表権」「業務執行権」を有しており、個人事業主の集合体や組合のような構造を持ちます。
ちなみに、さきほど説明した合資会社において無限責任社員あるいは有限責任社員が辞め社員1名のみの会社になった場合は、新たに社員を入れるか、無限責任社員1名の合同会社になります。
有限責任と無限責任
ちなみに、ここまで度々「有限責任」と「無限責任」という言葉が登場しましたが、念のため意味を確認しておきましょう。
「有限責任」「無限責任」とは、その名のとおり、会社に対して負う責任が有限か?無限か?ということです。
もう少し具体的に言うと、会社の債務に対してどこまで責任を負うのか?ということです。
たとえば、会社が1000万円の借り入れ(借金)があり、破綻してしまった場合、有限責任であれば自身が出資した資本金などを限度額として責任を負うことになります。ですから、仮に資本金を100万円拠出していて、会社が1000万円の負債を抱えて倒産した場合でも、資本金の100万円以上は返済の義務を負いません。
会社がどれだけ多額の負債を抱えたとしても、個人の財産が直接的に危険にさらされることはないのです。
一方で、会社が1000万円の負債を抱えて破綻した際、無限責任の社員は債務の全てに対して責任を負わなくてはならず、個人の財産を持って弁済する必要があります。(実際に支払い能力があるかどうかは別して)1億円でも、10億円でも、限度なく責任を負うことになってしまうのです。
このように、無限責任は有限責任と比べてはるかに大きなリスクがあります。
ちなみに株式会社の株主と合同会社の社員は有限責任で、さきほど説明したように合資会社では有限責任社員と無限責任社員の両方が存在し、合名会社は全員が無限責任社員となります。
合資会社・合名会社のメリット
合資会社や合名会社の基本的な性質がわかったところで、これらの会社形態のメリットを見ていきましょう。
設立手続きが簡単
合資会社や合名会社の設立は、株式会社と比較すると手間もかからず割合簡単です。
特に合資会社は、多くの会社形態の中でも一番てつづきが簡単だと言われています。
法人を設立しようと思ったとき、手軽に手続きができるのはメリットのひとつでしょう。
設立費用が安い
合資会社・合名会社は設立手続きが簡単なだけではなく、設立にかかる費用も安くなっています。
株式会社の場合、おおむね20万円~30万円の幅の設立費用がかかってきますが、合資会社は合名会社では最低限必要な手続きを最安で済ませた場合は6万円、一般的な金額でも10万円程度と、株式会社の設立費用と比べると圧倒的に費用が安くなっています。
また資本金についても、合資会社は合名会社では不要かつ金銭以外に労務や信用、現物での資本提供が認められているため、設立のハードルは非常に低いという特徴があります。
ランニングコストが安い
また、設立後のランニングコストにおいても、合資会社や合名会社は株式会社よりも安く抑えることが可能です。
たとえば、株式会社で義務付けられている決算の公告も合資会社や合名会社では不要なため、官報などに掲載する際の費用がかかりません。
また株式会社では役員の任期は最長10年で、10年目以降同じ人が引き続き続投する場合でも再任という形を取るため、重任登記費が必要となってきます。
他方、合資会社・合名会社では任期の制限がなく、重任登記費も不要です。
このように、株式会社と比べて合資会社や合同会社は様々な手続きが簡素化・不要とされているため、そこにかかる費用も節約することができるというわけです。
合資会社・合名会社のデメリット
今説明したような金銭的・手続き的なコストの削減は合資会社・合名会社のメリットと言えるでしょう。
しかしながら、合資会社や合名会社を選択する際のデメリットも存在します。
社会的信用度
まず合資会社・合名会社のデメリットというと、社会的信用度があるでしょう。
株式会社と比較して一般的な認知度が圧倒的に低い形態です。実際、政府統計によると、株式会社が毎月10000社程度、合同会社で3000社程度設立されているのに対して、合資会社や合名会社は毎月2~3社、設立ゼロという月もあります。
そのため、取引先の開拓や社員の採用において苦労することがあるかもしれません。
無限責任のリスク
そして、合資会社・合名会社の最大のリスクが「無限責任」によるリスクです。
さきほど説明したように、合資会社では最低1名の無限責任社員が必要で、合名会社では全員が無限責任社員となります。
無限責任会社は、会社の負債に対して限度なく責任を負わなければいけません。仮に会社が何億、何十億という多額の負債を抱えて倒産した際は、原則その全ての責任を無限責任社員が個人の資産を持って弁済する必要があります。
このとき、個人の支払い能力を超えてしまっている場合には最悪自己破産ということもあり得るのです。
合資会社・合名会社を選択する理由はある?
上記のメリット・デメリットをふまえた上で、会社設立にあたって合資会社や合名会社を選択するかどうか?ですが、
結論、現在では合資会社や合名会社を選択するメリットはほとんどありません。
というのも、この合資会社や合名会社というのは新会社法が施行される2006年以前に多く見られた会社形態なのです。
以前は株式会社を設立するには資本金が最低1000万円、有限会社では300万円という下限が設定されていたため、資金に乏しい個人や事業形態で起業するにはハードルが高いという難点がありました。
そのため、合資会社や合名会社のような下限が無く、金銭以外の資本で設立が可能な形態にも一定の需要があったのです。実際に、代々続く歴史ある酒造や旅館、家族経営企業などは現在も合資会社や合名会社の形態を取っていることがあります。
しかし、2006年に会社法が改正され、最低資本金額の制度が廃止、取締役1名からでも設立可能になるなど、株式会社の設立が容易になりました。また、より手軽な会社形態としては合同会社が誕生しました。
合同会社は合資会社や合名会社に似た手続きや運営の簡易さを持ちながらも、株式会社のように有限責任であるため、合資会社や合名会社の最大のデメリットであった個人の直接的なリスクを回避できるという性質を持ちます。
このため、現在でも合資会社や合名会社を設立することは可能ですが、そのメリットは合同会社と比べてほとんど無いに等しく、むしろデメリットのほうが目立つため、新規で設立される際にはほとんど選択されなくなっているのです。
まとめ
今回は現在設立できる会社形態の内、合資会社と合名会社を中心に詳しく見てきました。
要点をまとめておきましょう。
- 合資会社、合名会社は現在も設立可能
- 現在ではメリットは薄く、デメリットは大きい
- 基本的には株式会社か合同会社の二択
新規で設立できる会社形態4つの内、特にマイナーな合資会社と合名会社ですが、その理由もわかったのではないでしょうか。
制度としては設立可能ですが、基本的にこれから新しく会社を作るにあたってあえて合資会社や合名会社を選択する理由は皆無と言っても過言ではないくらいで、実際に新規の設立数も片手で数えられるほどしかありません。
基本的には株式会社か合同会社のどちらかを選択することになるでしょう。
株式会社と合同会社のどちらを選択するか?については別記事でも詳しく触れていますので、ぜひそちらも参考にしてみてください。
また合資会社や合名会社も含め、判断に迷った場合は専門家に相談するのもおすすめです。
安易に選択し後々後悔することがないよう、それぞれの違いを十分に理解してから手続きを進めましょう。