会社(法人)を設立するにあたっては、当然ですが所定の手続きが必要になります。色々と用意するものがあったり、何度か足を運ばなければいけない場所もあったりと、慣れていないと難しく複雑に思えるかもしれませんが、実は会社の設立そのものは特に専門家の手を借りることなく自分一人でも行うことが可能です。最近はインターネット上に情報もたくさんありますから、はじめての会社設立だとしても調べながら手続きを進めていけば自力で設立することも不可能ではないでしょう。
一方で、税理士や司法書士といったそれぞれの分野の専門家や、会社設立に特化した代行業者などを通して設立することも可能です。
では実際のところ、新たに会社を設立する際は自分でやるのが良いのか?あるいは専門家や業者に代行を依頼するのが良いのか?どちらなのでしょうか。今回は会社設立を自分だけでやる場合と、各種の専門家に依頼した場合それぞれのメリット・デメリットを比較していきます。
会社設立を自分でやるメリット
それではさっそく、まずは会社設立を自分自身で行う場合のメリットについて考えていきましょう。
余計な費用がかからない
会社設立を自力で行う際の最大のメリットといえば、「費用」でしょう。
法人の設立には必ず必要な費用がいくつかあります。たとえば「定款の認証手数料」「定款の印紙代」「登録免除税」など(ただし電子定款の場合は印紙代は不要です)。これらは設立にあたって必ずかかってくる費用なので、自分で手続きをしても他者に依頼して代行してもらっても変わりません。
以下に会社設立をする際に必要な費用をまとめました。
株式会社の場合 | 合同会社の場合 | |
---|---|---|
定款の認証手数料 | 3~5万円(資本金額による) | ― |
定款用の収入印紙代 | 4万円(電子定款の場合は不要) | 4万円(電子定款の場合は不要) |
定款の謄本手数料 | 平均2,000円前後(ページ数×250円) | ― |
登録免許税 | 15万円~(資本金額×0.7%もしくは15万円のいずれか高いほう) | 6万円~(資本金額×0.7%もしくは6万円のいずれか高いほう) |
印鑑(実印など)作成代 | 3,000円~ | 3,000円~ |
印鑑証明書代 | 300円~(300円×枚数) | ― |
登記事項証明書発行代 | 500円~(500円×枚数) | 500円~(500円×枚数) |
資本金 | 1円~ | 1円~ |
状況によって金額が変動するものもありますが、おおむね株式会社では18万円~24万円、合同会社では6万円~11万円程度が費用としてかかってきます。ちなみにこちらの表は必ずかかるであろう金額のみを記載していますが、実際は自身で電子定款の手続きを行う際に専用のソフトやICカードリーダーを用意したりと、状況に応じて追加で細かな出費がかかってくることもありますので少し多めに見積もっておくのが安心です。
逆に言うと、ここで取り上げた費用以外は基本的に発生しないので、株式会社であれば最低限30万円程度あれば自分自身で会社設立が可能になります。
経験を積める
また、会社設立という普通では経験することのない手続きを自身で体験することは貴重な経験にもなるでしょう。特に別事業で複数の法人を立ち上げる予定のある人などは、今すぐ予定にはなくても経験を積んでおけば二社目以降の設立のハードルが下がり、時間もお金も節約できることでしょう。
ただし、会社設立の経験自体は今後の事業や経営に直接生かせるような汎用性のあるものではないため、将来二社目を立ち上げる予定が無い人にとっては経験による直接的なメリットは薄いかもしれません。
会社設立を自分でやるデメリット
続いて、会社設立を自分で行うことによるデメリットについても説明しておきます。
時間がかかる
会社設立を自分で行う最大のデメリットは「時間」です。
特に一社目の会社設立の手続きの場合、定款の作成、印鑑作成と印鑑登録、資本金の振込などなど…全てがはじめての経験のはず。ひとつひとつわからないことを調べて、不慣れな作業をこなすには想像以上に時間がかかることでしょう。
コスパが悪い
そうして苦労して設立したとしても、さきほど説明したようにそこで得た知識は今後活かすタイミングもさほどありません。また後述しますが、費用面においても実際はそれほど節約にならず、場合によっては代行してくれる専門家などに依頼したほうが安くなる場合さえあります。
会社設立の作業はかけた時間や労力などに対して得られるものが小さく、要するに“コスパの悪い作業”なのです。
会社設立を専門家に依頼するほうがお得!
今説明したように、会社設立作業は地味で大変な作業なのに、直接的に得られるメリットは大きくありません。
であれば、最初から誰かに代行を依頼したほうが時間も手間も節約できて結果的にメリットが大きくなります。実際、多くの経営者が会社設立の際には自分で手続きを行わず、代行業者や専門家に依頼しているのです。具体的には、税理士や司法書士、行政書士といった専門家に依頼するケースが多いでしょう。
※設立を代行依頼したほうが安上がり!?
「でも代行費用って高いんじゃないの?」なんて心配もあるかもしれません。
たしかに、代行依頼をすると多少の費用は必要になってきます。費用は依頼先によってまちまちですが、相場はおおむね数万円~10万円程度。創業初期にとっては安くはないかもしれませんが、特別に高額な買い物というわけでもないでしょう。
さらに、会社設立を専門に扱っている税理士などの場合、顧問契約を結すぶと設立費用が無料!なんてケースも多くあります。こういったプランやサービスを上手に活用すれば、自分で設立するよりも圧倒的に楽で・お得に会社を設立することが可能になります。
誰に依頼する?会社設立を代行してくれる専門家の比較
では、専門家に依頼する場合、誰に依頼するのが良いのでしょうか?ここでは代行依頼を多く請け負う税理士、司法書士、行政書士それぞれの特徴を紹介しておきます。
司法書士
司法書士は、書類の作成や登記の作成・認証、登記申請など会社の設立のプロセスを一貫して行うことができる唯一の士業です。また、増資、事業目的の追加、社名の変更といった設立後の各種手続きの際にも司法書士が対応することになります。
ですから、純粋に会社設立の手続きのみを代行してもらいたい場合は、司法書士に依頼すれば最初から最後まで全て対応してくれます。ただし、税務署への税務関係の届出はできません。
行政書士
行政書士は、司法書士と担当範囲が似通っていて、設立関係の書類作成や定款作成・認証などを担当してくれます。ただし法務局への登記申請は行うことができないため、この部分のみ司法書士が担当する形になります。
実務上では、司法書士事務所と行政書士事務所は同じ代表者によって併設されていたり提携を組んでいたりして、定款作成などは行政書士、法務局への申請は司法書士と役割分担を行っていることが多いです。
また不動産売買・仲介業や旅行業など許認可が必要な業種の場合は行政書士に依頼することになります。
税理士
税理士は、一番なじみのある士業であることが多いでしょう。
設立の手続きとしては直接対応できる部分は多くありませんが、たとえば設立形態(株式か合同か?など)、資本金額、決算期の決定、創業融資・補助金や助成金の相談といった、会社経営に欠かせないお金の相談をすることができます。また、設立後の税務署への申請なども税理士が対応する範囲です。
ただしすでに説明したとおり、会社設立に関する直接的な手続きの代行はできないので、実務上は提携している司法書士などに設立業務を引き継ぎ対応することになります。
※社会保険労務士
その他、会社経営に関わる士業としては社会保険労務士(社労士)がいます。
社会保険や雇用保険の手続き、年金事務所への手続きなど重要な作業を代行してくれる社労士ですが、特に創業当初で雇用もない場合やスモールビジネスで代表者一人のみの会社(いわゆる一人親方)の場合、最初の社会保険の加入手続き以外はあまり関わることが多くない業種でしょう。
また基本的に許認可関係は行政書士が対応することが多いのですが、例外的に労働者派遣事業や有料職業紹介事業など一部業種の許認可申請が必要な場合は、社労士が対応することになります。
会社設立は税理士に依頼するのがおすすめ!
今説明してきたように、基本的には司法書士、行政書士、税理士のいずれかの専門家に依頼することが多いでしょう。そしてどの士業に依頼しても全ての設立業務や手続き関係を一人で完結させることはできないため、実際には他の士業と連携して手続きを行っています。ですから、依頼する側としては最初の入り口となる窓口が変わるだけとも言えます。
それらをふまえた上で、「じゃあ誰に(どこに)依頼するのが良いのか?」というと…圧倒的に税理士がおすすめです。
税理士は司法書士や行政書士と違って、多くの会社が継続的に関わる業種になります。規模の大小に関わらず税理士と顧問契約を行っている会社は多いでしょう。対して一般的に創業時以外にお世話になることが少ない他の士業と顧問契約を結ぶことはまずなく、「顧問司法書士」「顧問行政書士」のような言葉はほとんど聞いたことがないはずです。また、顧問契約がなくても決算だけは毎年税理士に依頼する…という会社は非常に多いはず。それだけ税理士と会社経営は切っても切り離せない関係にあるということです。
であれば、どうせ顧問契約や決算を依頼する可能性が高いのですから、創業前に相談しておくほうが何かと今後の会社経営に有利に働きます。税理士はお金のプロフェッショナルですから、すでに説明しているようにそもそも個人事業が良いのか?法人を設立を設立したほうが良いのか?といった話から法人を設立するならどのタイミングがベストか?決算期は?など、税務や財務上一番メリットの大きい方法や手段、タイミングを提案してくれるはずです。
また、会社の設立と同時に融資を受けたい場合なども、自分で銀行にお願いするよりも有利になることが多いでしょう。もちろん融資の相談自体は自分ひとりでもできますが、銀行が融資を決定するにはそれなりの根拠が必要です。これまで自分で融資の申請をして実際に通過した経験がある場合は別ですが、創業期ではじめての融資を受ける場合は、自分一人ではなかなか銀行の融資担当者を納得させられるような事業計画書や資金繰り表は作れないはず。
そこで専門家の税理士に相談すれば、数字的な根拠をもって書類を作成することができます。また融資に強い税理士であれば、他社の融資に通過した事例や各金融機関の情報を持っていたりと融資のノウハウがありますので、さらに心強いでしょう。さらに、日本政策金融公庫などから融資を受ける場合、認定支援機関として認定されている税理士などに相談することを条件に通常より低い金利で融資を受けられたりと様々なメリットがありますから、特に資金調達の際には積極的に税理士に相談したいところです。
このように、税理士には会社設立前も設立後も定期的に相談すべき事柄が多くあります。もちろん継続的な相談には顧問契約が必要となりますが、相談した結果、融資や税金面で顧問料以上のメリットを得られる可能性も高いです。
であれば、顧問契約することも念頭に、さきほど紹介した顧問契約とセットで設立費用が割引されるサービスなどを行っている税理士事務所を検討してみるのもアリでしょう。冒頭でも説明したように、自分で会社を設立したとしても必ずかかってくる削減できない費用が大半を占めますし、誰かに依頼してもさほど金額的には変わりません。むしろ、賢く利用することで自分で設立するよりも時間も手間も省くて、さらに安く設立することも可能になります。
たいていのことは誰かに依頼せず自分で時間と手間をかけることで直接的な費用を抑えることができますが、会社設立に限っては自分でやらず人の手に頼るほうが圧倒的にメリットが大きいのです。
まとめ
今回は会社の設立手続きを自分でやるべきか?専門家に依頼すべきか?それぞれの特徴や費用、メリット・デメリットなどを詳しく説明しました。
要点をまとめますと、
- 会社設立の手続きは自分でもできるが手間のわりにメリットが薄い
- 司法書士、行政書士、税理士などの専門家に代行依頼するのが一般的
- 特に税理士に依頼するのは直接的・間接的にもメリットが大きい
となります。
繰り返しになりますが、会社設立の手続きは自分でも可能ではありますが、膨大な時間と手間が必要になります。であれば、たとえば士業が提供している設立代行サービスなどを利用するのもひとつの手です。
特に経営者にとって時間は一番重要かつ有限な資源です。限られた時間を最大限有効に使いビジネスを成長させるためにも、会社設立の手続きなど自分でやらなくても良い作業は外注して、本来の事業に専念するのがベストな選択と言えるのではないでしょうか。