起業して会社を設立する際、通常は費用がかかります。
しかしネット上には「0円で起業!」「無料で会社を設立」といった言葉や広告が溢れているのも事実。
会社を0円で設立できると聞いたことがある人もいるでしょう。
では本当に0円で会社を設立することは可能なのでしょうか?お金は無くても起業できるのでしょうか?
今回は0円起業、0円での会社設立について詳しく見ていきます。
0円での会社設立は可能か?
まずいきなり本題から説明します。
会社の設立を0円で行うことは不可能です。
なぜなら、会社(法人)を設立するにあたっては必ずかかる費用が存在するからです。
たとえば、
- 登録免許税
- 定款認証手数料
- 印紙代
などが必要です。
それぞれの項目の金額は設立する会社の形態や資本金額によっても変動しますが、たとえば株式会社であればおおむね20~25万円程度、合同会社では6~10万円程度かかります。
また、自力で設立せずに業者などに代行を依頼する場合は、業者に支払う手数料もかかることでしょう。
このように、会社を設立しようと思ったら、最低でも10~30万円ほどはかかるのです。
0円の会社設立代行って?
それでは、ネット広告などでよくある「0円で会社設立!」とはどういう意味なのでしょうか?
これは、
- 設立代行にかかる手数料が無料
- 実費も含めて無料
の2つのパターンがあります。
0円の会社設立で多いのは、1の手数料が無料になるパターンです。通常、会社設立においては行政書士や司法書士といった専門家が関わってきます(それぞれの専門分野において独占業務が存在するため)。
そうした専門家に依頼すると上で述べた通り一定の手数料がかかるものですが、この手数料を代行業者が提供するサービスを契約することで無料にしますよ、というものです。
会社設立を代行しているのは代行専門業者以外では税理士なども多いですが、税理士の場合は顧問契約を条件に割引をするパターンが多いですね。
また、稀に2のように上で説明した定款認証手数料や印紙代といった、設立に関する実費まで負担してくれるケースがあります。こういったサービスを利用することができれば、たしかに会社設立に関する費用は完全無料、0円と言えるでしょう。
資本金も0円で設立可能
ちなみに、会社を設立する際には資本金が必要になりますが、この資本金も0円に抑えることは可能です。
法改正以前は株式会社では最低1000万円、有限会社では最低300万円の資本金が必要でしたが、2006年5月に施行された新会社によって最低資本金制度が廃止されたため、資本金が0円でも会社の設立が可能になりました(※厳密には「1円以上の資本金」か、PCや自動車といった資産計上できる「現物」による出資が必要)。
そのため、資本金も現物支給で0円あるいは1円に設定すれば、先のサービスなどの利用と合わせて理論上は完全に0円で会社設立が可能です。
ただし、現実には資本金が1円では事業運営において不都合な面も多くあります。
たとえば融資を受けたいと思ったときには、新規設立の会社であれば基本的には売上もないでしょうから、会社としての体力を測る上で資本金は重要な項目です。もちろん合理的な理由があれば別ですが、例外を除き売上も無く、資本金も無い会社が融資を受けるのは難しいでしょう。
また、資本金1円の会社は取引先からも敬遠される可能性があります。会社の資本金は、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)に記載されていて、登記簿謄本は誰でも簡単に取得できますから、調べることは容易です。
大きな企業になればなるほど、相手方が信頼できるかどうかはしっかりと調査しますから、新設の法人で資本金も1円しかないとなると、取引を断られる原因にもなりかねません。
0円会社設立のデメリット・注意点
このように、通常であれば数十万円の費用が掛かる会社設立を節約することができる“0円設立”ですが…安いだけにデメリットや注意点も存在します。
不要なサービスを契約させられる
専門家への手数料だけでなく、実費まで負担してくれる設立代行サービスの場合、当然タダで設立してくれてハイ終わり、というわけにはいきません。
相手もボランティアではありませんから、負担した分はどこかで回収する必要があります。
こうした業者の場合、自社の関連サービスを契約することを条件に設立費用を負担する契約を結ぶことが多いです。
たとえば電話回線やインターネット、法人携帯、OA機器・プリンター、電気・ガスなどのインフラ、ウォーターサーバーなどなど…多岐に渡ります。
一見、「インターネットや電話なら絶対に使うし問題ないのでは?」と思うかもしれませんが、ネット回線は品質に対して価格が割高だったり、電話に関しても、法人携帯やクラウドフォンは導入費用や月額費用が高額になるケースが多いです。
今はインターネット回線や携帯業者の競争も激しく、低価格でも高品質なサービスがたくさんありますから、個人で契約するほうが圧倒的にお得なケースが多いです。
またOA機器にしても、創業当初はPCなどは自前のもので、プリンターもとりあえず家庭用のものがあれば事足りるなんてことも多いでしょう。ペーパーレス化が進んでいる昨今ですから、普段書類をあまり印刷する機会が無ければコンビニプリントで事足りてしまうかもしれません。
そう考えると、必ずしも設立費用の割引に釣られてサービスを契約するのがお得とは言えないということがわかるのではないでしょうか。
通常よりも割高な料金の契約になる
また、完全無料とはいかなくても、専門家への手数料プラスアルファの金額を割引してくれる設立代行は多くあります。
提携する司法書士などと連携しサービスを提供している税理士法人などに多いパターンです。
この場合、税理士法人との契約になりますから、たいていの場合で顧問契約を結ぶことが割引の条件になってきます。法人の会計や決算となると複雑かつ膨大な事務処理になりますから、顧問契約を結ぶ法人は非常に多いですし、どのみち顧問契約をするなら悪くはない気がしますね。
ただここで注意したいのが、「はたして本当にその税理士で良いのか?」ということです。
設立代行で割引をしている分はどこかで回収しなければいけません。これはさきほどのようなサービス提供型の代行会社であっても、税理士法人であっても同じです。
そうなると、割り引いた分を金額を回収するために、一般的な相場よりも高い顧問料を払わなければいけない、なんて可能性もあります。あるいは月額顧問料は一般的だが決算費用が高いといったこともあるでしょう。長期間契約が条件になっていて、途中の変更が難しいかもしれません。
このように、設立時の初期費用を大幅に安く抑えた分は、どこかにしわ寄せが現れるものです。
もちろん、全ての税理士や税理士法人が上記のような形式を取っているわけではありません。税理士は数も多く、オンライン化が進むことで全国どこにいても顧客が比較検討できる現代では、税理士間の競争も激しくなっています。
そのため、純粋に顧客獲得のために設立費用を負担しているケースもあります。
いずれにせよ、顧問契約を結べば長い付き合いになりますから、設立費用の安さだけを見るのではなく、提供しているサービスの質や料金相場など、本来税理士と契約する際に見るべき本質的な部分を忘れないようにするのが重要です。
まとめ
今回は、0円、無料でできる会社設立について詳しく解説してきました。
要点をまとめておきます。
- 0円の会社設立は代行業者のサービスなどを利用すれば可能
- 資本金も0円(1円または現物出資)で設立可能
- 0円の会社設立サービスには注意点も多い
会社を設立しよう、起業しようという創業期では、資金力が乏しいことも多いでしょう。そんなとき、数十万円単位でかかる会社の設立費用を抑えられるのであれば、とても助かります。
ただ、ここまで見てきたように、設立費用を負担してくれるサービスを利用すると、代わりに契約しなければならないものも出てきます。
最初から契約を考えていたサービスだったり、税理士との顧問契約などであればまだ良いかもしれませんが、明らかに不要なサービスまで契約した結果ランニングコストが高くなってしまっては本末転倒です。本当にその代行業者で大丈夫なのか?よく検討してから契約するようにしましょう。
ちなみに法人を設立する場合、ほとんどのケースで税理士と契約することになりますから、どうせなら税理士が提供する会社設立サービスを利用するのが合理的です。
ただし、その際も会社設立のサービスありきで選ぶのではなく、税理士としてのサービスや内容に満足できそうか?料金相場は適切か?自社に業種に強いか?という、本来の税理士探しと同じ観点から候補を探しましょう。
その上で、会社設立の依頼でき、顧問契約などをすることで安くなるのであればラッキー、くらいに考えておくのが一番後悔しない契約になります。
会社設立はあくまで手段であり目的ではないので、設立した先のことも考えた上でサービス契約の検討をしてください。