個人事業主の方が事業を運営していく上で、「融資」は重要な資金調達手段の一つです。
しかし、どのような種類の融資があり、どうすれば審査に通りやすくなるのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、個人事業主が利用できる代表的な融資制度の種類、審査で重視されるポイント、そして融資を成功させるためのポイントを解説します。
個人事業主が「融資」を理解するための基礎知識
事業の成長や安定経営を目指す個人事業主にとって、融資は大きな武器となり得ます。
個人事業主が融資を検討する主な理由には、開業資金の調達、運転資金の確保、設備投資、事業拡大などが挙げられます。
融資を上手に活用することで、自己資金だけでは難しい規模の事業展開や、急な資金需要にも対応できるようになります。
融資はあくまで借入れであり、返済義務が生じることを念頭に置き、無理のない計画を立てることが重要です。
【国の融資制度】日本政策金融公庫(JFC)~個人事業主の強い味方~
日本政策金融公庫(JFC)は、政府が100%出資する金融機関であり、民間では対応が難しい創業者や小規模事業者への融資を積極的に行っています。
個人事業主にとって、利用しやすい融資制度が豊富に用意されているのが特徴です。
JFC融資の特徴と個人事業主へのメリット
JFCの融資は、個人事業主を含む小規模事業者や創業者に対し、無担保・無保証人で利用可能な制度があるなど、門戸が広く設定されています。
また、民間金融機関に比べて金利が低めに設定されている場合が多く、返済期間も比較的長期で組めるため、個人事業主の資金繰りをサポートします。
【創業時に】新規開業・スタートアップ支援資金 – 自己資金要件撤廃の影響は?
新たに事業を始める個人事業主や、開業後約7年以内の方を対象とした、JFCの代表的な創業者向け融資制度です。
- 対象となる個人事業主
新規創業者、または事業開始後おおむね7年以内の方。
- 融資条件のポイント
融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、設備資金および運転資金に使えます。
金利は基準金利のほか、一定の条件を満たすことで特別利率が適用される場合があります。
- 自己資金要件撤廃と審査への影響
2024年3月の制度改定により、従来の自己資金要件が撤廃されました。
これにより、自己資金の準備が十分でない個人事業主も融資に挑戦しやすくなりましたが、事業計画の質や事業主の経験・能力がより一層厳しく評価される可能性がある点に注意が必要です。
【経営改善に】マル経融資(小規模事業者経営改善資金)- 無担保・無保証の条件
すでに事業を営んでいる個人事業主(小規模事業者)が、経営改善に必要な資金を調達するための制度です。
- 対象となる個人事業主
商工会議所や商工会等の経営指導を原則6ヶ月以上受け、その推薦を受けた小規模事業者(従業員数要件あり)が対象です。
- 利用のメリットと注意点
融資限度額は通常2,000万円で、原則として無担保・無保証人で利用できます。
金利も低めに設定されています。
ただし、融資を受けるには商工会議所等での経営指導が前提となるため、申し込みまでに時間を要します。
個人事業主がJFC融資を申込む際のポイントと流れ
JFCの融資を申し込む際は、事業計画書の作成が極めて重要です。
売上予測や利益計画を具体的に示し、実現可能な計画であることが求められます。
申込後の面談では、事業内容だけでなく、事業主の人柄や事業への熱意も評価されます。
一般的な流れは、事前準備(事業計画書作成、必要書類準備など)、相談・申し込み、面談・審査、契約・融資実行となります。
【地域の融資制度】都道府県・市区町村の制度融資~地域に根ざした個人事業主向け支援~
地方自治体(都道府県や市区町村)が、地域の金融機関や信用保証協会と連携して提供する「制度融資」も、個人事業主にとって重要な資金調達の選択肢です。
地域経済の活性化を目的としており、有利な条件で融資を受けられる場合があります。
「制度融資」と信用保証協会の役割~個人事業主が知っておくべき仕組み~
制度融資は、地方自治体が金融機関の融資に対して利子補給を行ったり、信用保証協会が融資の保証人となることで、個人事業主が融資を受けやすくする仕組みです。
信用保証協会は、万が一事業者が返済不能に陥った場合に、金融機関に対して代位弁済を行います。
これにより金融機関のリスクが軽減され、実績の少ない個人事業主でも融資の道が開けます。
事業者は、この保証の対価として信用保証料を支払います。
個人事業主が制度融資を利用するメリットと一般的な条件
制度融資のメリットは、自治体によるサポートがあるため、金利が低く抑えられたり、保証料の補助が受けられたりする場合がある点です。
利用資格は、当該自治体内に事業所があること、税金の滞納がないことなどが一般的です。
制度融資の申請から融資実行までの期間と注意点
制度融資の申し込みは、通常、自治体が指定する取扱金融機関の窓口で行います。
その後、金融機関と信用保証協会による審査が行われます。
融資実行までの期間は、審査状況にもよりますが、一般的に1ヶ月から2ヶ月程度かかることが多いとされています。
余裕を持ったスケジュールで申請準備を進めることが大切です。
【民間の融資制度】民間金融機関の融資~個人事業主の事業拡大に向けた選択肢~
銀行、信用金庫、信用組合といった民間金融機関からの融資も、個人事業主の資金調達手段となります。
特に、金融機関が直接リスクを負って行う「プロパー融資」について理解を深めましょう。
プロパー融資とは?~個人事業主にとってのハードル~
「プロパー融資」とは、信用保証協会の保証を付けずに、金融機関が100%自己の責任と判断で実行する融資です。
金融機関が全リスクを負うため、JFCの融資や制度融資と比較して、審査は一般的に厳しくなる傾向にあります。
事業実績が豊富で財務状況が良好な事業者向けの融資と言えるため、創業間もない個人事業主や事業実績の浅い個人事業主にとってはハードルが高い場合があります。
個人事業主がプロパー融資の審査で重視される3つのポイント
民間金融機関がプロパー融資の審査で特に重視するポイントは以下の通りです。
- 財務状況の健全性
貸借対照表の内容、特に現預金残高や実質自己資本(純資産から役員貸付金や不良資産などを控除したもの)が重要視されます。
債務超過の場合は融資が非常に困難です。
また、損益計算書ではキャッシュフロー(税引前利益+減価償却費)が返済能力の源泉と見なされます。
- 事業計画の妥当性と将来性
事業計画書の内容が具体的で実現可能性が高く、市場環境や競合状況を的確に分析できているかが問われます。
資金使途が明確で、それが事業の成長にどう貢献するのかを論理的に説明できる必要があります。
- 経営者の資質と信用力
経営者個人の経験、能力、事業への熱意に加え、過去の信用情報(クレジットカードの支払遅延やローンの返済遅延などがないか)も重要な評価対象となります。
個人事業主が民間金融機関からの融資獲得を目指すための準備
プロパー融資を獲得するためには、日頃からメインバンクとの良好な取引関係を築き、定期的な業況報告を行うことが重要です。
また、税理士などの専門家の助言を受け、正確で説得力のある決算書や事業計画書を作成することが求められます。
明確な資金使途を示し、なぜその融資が必要なのかを具体的に説明できるように準備しましょう。
個人事業主が融資審査に通りやすくなるための共通戦略
どの融資制度を利用する場合でも、審査を通過しやすくするために共通して重要となる戦略があります。
これらのポイントを押さえて、融資実現の可能性を高めましょう。
具体性と実現可能性の高い事業計画書の作成
事業計画書は、融資審査において最も重要な書類の一つです。
事業概要、市場分析、販売戦略、運営計画、そして詳細な財務計画(収益予測、経費予測など)を盛り込み、金融機関が「この事業なら成功しそうだ」「きちんと返済できそうだ」と判断できるような、論理的で説得力のある内容に仕上げる必要があります。
売上予測や利益計画には、業界データや競合調査データなどに基づいた具体的な根拠を示すことが求められます。
明確な資金使途と適切な融資希望額
借り入れた資金を何に使うのか(資金使途)を明確に説明することが不可欠です。
設備資金であれば導入する機械の詳細や見積書、運転資金であれば具体的な内訳(人件費、家賃、仕入れ費用など)を提示し、それらが事業の成長や収益向上にどのように貢献するのかを具体的に示す必要があります。
また、事業規模や返済能力に見合わない過大な融資希望額は、計画の甘さを露呈し、審査で不利になる可能性があります。
良好な信用情報の維持と税務状況の管理
金融機関は、信用情報機関を通じて申込者の信用情報を確認します。
過去にクレジットカードの支払いやローンの返済遅延などがあると、審査に不利な影響を与える可能性があります。
日頃から支払い遅延などを起こさないよう注意深く管理することが肝要です。
また、所得税や事業税などの納税状況も確認されるため、滞納がないようにしましょう。
面談対策の徹底 – 熱意と論理性を伝える
融資の申込手続きには、多くの場合、担当者との面談が含まれます。
面談では、事業計画の内容だけでなく、事業主の人柄や事業への熱意、経営者としての資質なども評価されます。
想定される質問(創業の動機、事業経験、商品・サービス内容、販売戦略、収支計画など)に対する回答を事前に整理し、誠実に、かつ具体的に回答することが重要です。
個人事業主の融資成功率を高めるサポート
個人事業主が融資申請を行う際、税理士や中小企業診断士といった専門家のサポートを活用することは、手続きの円滑化と成功率の向上に大きく貢献します。
税理士・会計事務所ができること
税理士や会計事務所は、資金調達において以下のようなサポートを提供できます。
- 財務諸表の作成と信頼性向上
金融機関が重視する決算書(貸借対照表、損益計算書)を会計基準に準拠して正確に作成し、信頼性を高めます。
- 事業計画書(数値計画)の策定支援
売上予測、費用計画、収支計画といった数値計画の策定を具体的に支援し、金融機関が納得する根拠に基づいた計画作成をサポートします。
- 金融機関選定のアドバイスと融資申請手続きのサポート
事業主に適した金融機関の選定や、融資申請手続き全般、面談対策などをサポートします。
資金調達の可能性を高め、事業の持続的な成長に繋がる有益な投資と言えるでしょう。
中小企業診断士ができること
中小企業診断士は、経営全般の専門家として、資金調達においても以下のような支援を行います。
- 経営戦略・事業計画の策定支援
市場分析や競合分析を踏まえ、事業戦略全体をブラッシュアップし、より実現可能で説得力のある事業計画書の作成を支援します。
- 最適な資金調達手段の選定
融資だけでなく、補助金や助成金なども含め、事業の状況や目的に合った多様な資金調達手段の中から最適なものを提案し、申請をサポートすることができます。
【まとめ】個人事業主が最適な融資を選び、事業を成功させるために
個人事業主が利用できる融資には、日本政策金融公庫、地方自治体の制度融資、民間金融機関のプロパー融資など、多様な選択肢があります。
それぞれの特徴を理解し、ご自身の事業の状況や目的に最も適した融資制度を選ぶことが、資金調達を成功させる第一歩です。
どの融資制度を利用するにしても、実現可能性の高い事業計画の策定、明確な資金使途の説明、そして良好な信用情報の維持は不可欠です。
また、必要に応じて税理士や中小企業診断士といった専門家の力を借りることも、融資獲得の可能性を大きく高めるでしょう。
融資を検討されている個人事業主の皆様にとって、事業の発展に向けた力強い一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。