もしかすると、個人事業をやられていて、ある程度所得がある方は消費税の課税事業者となるタイミングで税理士から「法人成り」を薦められたことがあるかもしれません。
たしかに、ある程度所得がある方は、法人化して役員報酬として受け取った方が給与所得控除を使えるし、現在は法人税の方が税率が低いので、役員報酬の設定の仕方によっては、税金は安くなります。
税金は…です。
しかし、会社を設立すると所得税、法人税以外に考えなくてはならないことがあります。
それは、社会保険です。
今回は本当に法人化した方が、社会保険を含めて節税になるのかを検証してみたいと思います。
また、考え始めると無数のケースがありますので、今回はわかりやすいケースを取り上げてみようと思います。
具体的な事例を紹介します
今回の計算は弊社が作成し実際に使用している法人成りSを使用します。
こちらは無料で配布しているので、後ほどご紹介いたします。
所得500万円 配偶者なし
法人成りしたことにより、役員報酬を450万円に設定します。
なぜ500万円にしないかというと、法人成りすることによって、社会保険と厚生年金に切り替わり、その会社負担分が経費となるからです。
このケースでは法人成りした方が30万円ほど税金が多くなってしまいます。
具体的に詳細を見て行きましょう。
【個人】 | 個人事業主 | 法人成り |
所得税 | 236,500円 | 107,000円 |
県民税 | 136,808円 | 85,820円 |
市民税 | 205,711円 | 129,230円 |
個人事業税 | 105,000円 | - |
国民健康保険税 | 452,890円 | - |
国民年金 | 196,920円 | - |
社会保険料 | - | 222,750円 |
厚生年金 | - | 411,750円 |
【法人】 | ||
法人税等 | - | 0円 |
均等割り | - | 71,000円 |
社会保険料・厚生年金【会社負担分】 | - | 634,500円 |
合計 | 1,333,829円 | 1,662,050円 |
※普通税金は100円未満切り捨てとなりますが、あくまでシュミレーションなのでご容赦下さい。
さて、所得500万円の個人事業主が法人成りしたケースでは、個人事業主であった方が負担が少ないことがわかりますが、そうなっている原因はなんでしょうか?
答えは、社会保険料と厚生年金にあります。
個人事業主の場合は、国民健康保険と国民年金に加入することになりますので、
- 国民健康保険 452,890円
- 国民年金 196,920円 合計 625,810円
一方法人の場合は、社会保険と厚生年金に加入することになるため、
- 社会保険 222,750円 ×2
- 厚生年金 411,750円 ×2 合計1,269,000円
となります。サラリーマンの場合は会社が半分を負担してくれているので、さほど気になりませんが、自分がオーナーである場合は、会社が半分負担するといっても、
自分が全額負担していると同じことです。
そこを考慮すると、法人成りしたことによって、所得税は多少減らすことができていますが、社会保険料の負担がそれ以上に増えるため、トータル節税にはなっていません。
こんなの絶対に法人成りしない方がいいじゃん!
そう思いましたか?
ただ、一概にそうとは言い切れません。次のケースを見てみましょう。
所得1000万円 配偶者なし
所得が1,000万円あって法人成りしたとします。そして役員報酬は控えめに450万円に設定します。
すると先ほどとは違い、法人に利益が出ますので法人税を支払うことになります。
すると、、、、、
今度は、法人成りした方が60万円ほど得する結果になりました。
【個人】 | 個人事業主 | 法人成り |
所得税 | 1,204,600円 | 107,000円 |
県民税 | 324,123円 | 85,820円 |
市民税 | 486,685円 | 129,230円 |
個人事業税 | 355,000円 | - |
国民健康保険税 | 770,000円 | - |
国民年金 | 196,920円 | - |
社会保険料 | - | 222,750円 |
厚生年金 | - | 411,750円 |
【法人】 | ||
法人税等 | - | 1,081,787円 |
均等割り | - | 71,000円 |
社会保険料・厚生年金【会社負担分】 | - | 634,500円 |
合計 | 3,337,328円 | 2,743,836円 |
さて、先ほどの例とは違い、法人成りをしたほうがっトータルの税金は低くなりました。
なぜ?逆転してしまったのでしょうか。
答えは、「所得税」にあります。
このケースだと、1,000万円の利益のうち、半分の450万円を役員報酬に充てました。
そうすると、考え方としは、半分が所得税、残り半分が法人税が課税されることになります。
そして、所得税より法人税の方が安いのです。
所得税は累進課税となっており、その最高税率は45%と高額です。
累進課税とは、所得が増えるにつれて税率も上がるという仕組みです。
下記の図のようになります。
このように、役員報酬が高くなればなるほど税額が増えます。
役員報酬1,000万円と役員報酬2,000万円をくらべると、所得税は2倍ではなくて、3倍ほどになるわけです。
ですから、今回のケースは「所得税ではなく法人税」を支払うことを選択したために、トータルの税金が下がったということができます。
法人の利益を全部役員報酬に充ててしまうと、今回のケースでも個人事業主の方がトータルでは税金が少なくなる結果になっています。
役員報酬を低く設定すれば、法人成りは節税になる
次は少し極端な例を紹介します。
所得2,000万 役員報酬600万 配偶者なし
役員報酬を600万円に設定して、利益の大部分を法人税に充ててみます。
法人成りをした方が200万円以上税金が少なくなります。
詳細は割愛しますが、税率の低い法人税に充てるとかなりの差が出ることがわかります。
単純な税金だけでは判断できない部分もある
ここまでは、単純な税金の話をしてきましたが、それをまとめると、
法人成りをして節税になるケースは、役員報酬を低めに設定して税率の低い法人税で税金を納めること
にありました。
しかし、それは単純な税金の計算であって、参考にはなるかもしれませんが、それだけでは判断できない部分もあります。
例えば、税金の話をするのであれば、
- 法人は生命保険などを経費にできる
- 法人が物件を借りて社宅として役員に貸す
- 役員に退職金を支払える
- 最初は消費税の免税期間がある
税金以外のことであれば、
- 積極的に採用したい
- 法人じゃないと取引できない
など、税金とは関係ないところでの判断も出てきます。
安易に、税理士から法人成りを勧められたからという理由で法人成りをするのではなく、税金も含め総合的に判断する必要があると思います。
法人成りをして後悔することが無いよう、事前にしっかりとシュミレーションをすることをおススメします。