決算直前になって思いのほか利益が出てしまっている場合に、税理士がよく提案するのが短期前払い費用です。
表面的には非常に効果が高いのでよく提案しがちですが、安易にこの短期前払い費用を使う前に一度考えて頂きたいことがあります。
1.短期前払い費用とは
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5380.htm 国税庁HP参照
例を挙げます。9月決算法人で、現在が9月1日だとします。
ここまでは、事務所の家賃を月額10万円を毎月末日に翌月分に支払っていたと仮定します。
すると、現時点では月額10万円の12か月分、120万円が経費として計上されているはずです。
通常であればこのまま毎月一定額の家賃を支払っていくのですが、短期前払い費用を節税目的で行う場合は、事務所家賃の契約を月払いから年払いに変更してもらいます。
そして、向こう一年分の家賃を一括で前払いし、今期の経費に計上します。本来であれば翌期の家賃ですので、今期の経費にはできませんが、それを認めてくれるというのがこの制度になります。
2.税金は減らせるけど金も減る
上記のケースでは、どうせ来期に払わなくてはいけない経費を前払いすることで今期に経費で落とせたからかなりの節税になったと思うかもしれません。
しかし、お金の流れを考えてみるとあんまり得しないということに気づきます。
わかり辛いと思いますが図をご覧ください。
前払いに切り替えた最初の年に利益が120万円だっだと過程します。
短期前払い費用を使うことによって、税金は0になりました。しかし、家賃を払った分の120万円はキャッシュアウトです。
一方、前払いをしない場合は、利益の120万に対して税金が掛かります。48万円のキャッシュアウトです。(簡易的に40%)
確かに家賃の前払いをすることによって、税金は減りましたが、キャッシュの流れを見ると前払いをしない方が72万円多くなります。
しかも、この72万円のキャッシュアウトが取り戻せるのは、上記のケースでいうと、事務所を解約したH32年9月期です。
驚くほど資金効率が悪いことに気づきます。あなたは経営者として短期前払い費用をどう判断するでしょうか?
3.税金を減らすだけが節税ではない
この短期前払い費用は簡単で表面的に税金が減らすことができるので、税理士は安易に提案しがちです。
別にこの方法が悪い方法だと言いたいわけではありません。こういった資金の流れになることを理解して、この短期前払い費用を節税対策として選択している経営者は少ないのではないかと思うのです。
もしも今、短期前払い費用を節税対策の一つとして選択肢にあるのであれば、一度お金の流れと資金効率を考えて見て下さい。
その上でこの方法を選択するのであれば、それはいい方法だと思いますし、効果はあります。
しかし、税理士に「経費が余分に計上できるからやった方が良い」という説明しか受けていない場合は一度他の方法も含めて考えて見る必要があると思います。
4.注意点
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
短期前払い費用は「継続」することが要件となっています。
一度年払いに変更してしまうと、継続しなくてはなりませんのでご注意ください。毎期どう支払うかを選択できるわけではありません。